「あ、果物ナイフならありますよ。キッチンはこっちです」

「ありがとう。じゃあ、それを使わせてもらうかな」

 純也さんは愛美に案内されて、勉強スペースの隅に(もう)けられた小さなキッチンへ。
 そこにあった果物ナイフを持って、テーブルの場所に戻ってきた。

「純也さん、お皿とフォーク出しときました」

「ああ、ありがとう。――えっと、君は……」

「自己紹介がまだでしたよね。あたし、珠莉とは二年連続でルームメイトになった牧村さやかっていいます」

「さやかちゃん、だね。よろしく。さっき、チョコレートケーキって聞いてすごく喜んでたね。チョコ好きなの?」

「え……、はい。見られてたんだ……」

 純也さんに笑いながら訊かれたさやかは、愛美とは違って恥ずかしさに赤面しながら呟く。
 恥ずかし過ぎて自らも笑い出した彼女につられて、キッチンでお茶の準備をしていた愛美も珠莉も笑い出し、室内は(なご)やかな空気に包まれた。

「――さて、切り分けようか」

 ジャケットを脱ぎ、ブルーのカラーシャツの袖をまくった純也さんが、ホールで買ってきたチョコレートケーキを八等分に切ってくれ、四枚のお皿に二切れずつ載せた。

「二つも食べられるかしら……」

 四人分のティーカップを熱湯で温めていた珠莉が、キッチンから心配そうに言った。
 彼女はモデル並みのスタイルをキープしたいので、太らないか気にしているのだ。

「大丈夫だよ、珠莉ちゃん。珠莉ちゃんが食べられなかったらわたしがもらうし、わたしがムリでもさやかちゃんが喜んで平らげてくれるよ」

 さっきの喜び方からして、彼女ならチョコスイーツはいくらでも入るんだろう。

「……そうね。ところで愛美さん。私ね、先ほど叔父さまがおっしゃったことで、一つ引っかかっていることがあるんだけど」

「ん? 引っかかってることって?」

 愛美は首を傾げた。――彼は何か気になるようなことを言っていただろうか? と。