一年前の五月に一度、純也さんと面識のある晴美さんは、彼の顔をうっとりと見ながら答えた。

「ええ、どうぞどうぞ。ごゆっくり」

「ありがとうございます。じゃ、お言葉に甘えて」

 純也さんが晴美さんに会釈をしてから、四人は寮のエレベーターに乗って三〇一号室へ。そこが愛美たちの部屋である。

「――晴美さん、純也叔父さまに見とれてらしたわね」

「単なる目の肥やしじゃないの? イケメンは目の保養になるからさ」

(イケメン……)

 エレベーターの中でさやかと珠莉のガールズトークを聞きながら、愛美は自分より四十センチも背の高い純也さんの横顔をおそるおそる見上げた。
 ちょっと切れ長の目に、すっと整った鼻筋。シャープな輪郭(りんかく)。――なるほど、確かにイケメンだ。晴美さんがうっとり見とれてしまうのも分かる。きっと、他の女性もそうだろう。

(でも、わたしは彼を顔だけで好きになったんじゃないもん)

 もちろん、彼がセレブの御曹司だからでもない。彼の内面にある優しさや穏やかさ、時々見せてくれる無邪気さに、愛美は惹かれたのだ。

「……? どうかした?」

 あまりにも夢中になって見つめていたら、ふと視線が合ってしまった。

「あ……、いえ。何でもないです」

 愛美ひとりが気まずくなって、ごまかしながら視線を落とした。
 恋愛経験が皆無で、異性に免疫のない愛美は、まだ男性と目が合うことに慣れていないのだ。
 純也さんはそれなりに女性との交際歴もあるようだから、これくらい何ともないだろうけれど……。

 ――エレベーターを降りてすぐ目の前が三〇一号室だ。

「さ、叔父さま。ここが私たちのお部屋ですわ」

 珠莉が先頭になって叔父を勉強スペースに案内し、愛美たちはフローリングの上にスクールバッグを下ろした。

「――さて、紅茶を淹れる前にケーキを切り分けようか。この部屋に包丁かナイフはある?」