やっぱりその男性は、ベージュ色のスーツをビシッと着こなしている純也さんだった。
 今日は何やら箱を持っている。――あの中には何が入っているんだろう?

「今日はどうなさいましたの? ご連絡もなしでいらっしゃるなんて」

「いや、仕事の用事で横浜まで来たから、ついでに寄ったんだ。連絡しなかったのは、ビックリさせようと思ったからだよ」

 叔父と姪の会話に入っていけない愛美の背中を、さやかがポンと叩いた。

「……えっ?」

「ほら、行っといで」

「わわっ!」

 そのまま文字通り背中を押された愛美は、純也さんの目の前で止まった。

(~~~もう! さやかちゃんのバカ!)

 純也さんと話したいのに、緊張でなかなか言葉が出てこない。あたふたしている愛美の顔は今、茹でダコみたいに赤くなっているに違いない。

「あ……、あの。お久しぶりです」

「久しぶりだね。去年の夏に、電話で話したきりだったっけ?」

「はい、そうですね」

 千藤農園にかかってきた電話のことだ。もう忘れていると思っていたけれど、彼はちゃんと覚えていてくれた。

「体調はどう? 冬にインフルエンザで入院してたって、珠莉から聞いたんだけど」

「――あら? 私、そのこと叔父さまにお話したかしら?」

「えっ、どういうこと?」

 困惑気味に交わされた親友二人の会話は、幸いにも愛美の耳には入らなかった。

「もうすっかり元気です。一ヶ月以上も前のことですよ? でも心配して下さってたんですね。ありがとうございます」

「そっか、よかった。僕もお見舞いに来たかったんだけど、仕事が詰まっててね。ゴメン」

「いえ、いいんです。そんなに気を遣わないで下さい」

 病気でふうふう言っている時よりも、元気になってからこうして会いに来てくれた方が、愛美は嬉しい。

「――ところで叔父さま、その箱は?」

 珠莉が目ざとく、叔父の手にしているケーキの箱のようなものを指さして訊ねた。