「そんなことないよ。むしろ新鮮だって思うべきだね、そこは」

 上級生になったからって、いきなり先輩ヅラする必要はない。一年後輩の子たちとも、新入部員同士で仲良くなれたらそれでいい。そうさやかは言うのだ。

「そうだね。――ところで、二人はもう部活決めた?」

 一年生の時は、それぞれ学校生活に慣れるのに必死だろうからと、部活のことは特に言われなかったけれど。二年生にもなれば、各々(おのおの)入りたい部活ややりたいことも見つかるというもので。
 ――もっとも、この学校は部活に対しても生徒個人の意思に任せる校風なのだけれど。

「あたしは陸上部かな。中学でも三年間短距離(スプリンター)やってたし、小さい頃から運動得意なんだよね」

「へえ、スゴい! 珠莉ちゃんは?」

「私は茶道部かしら。お茶とお花は大和(やまと)撫子(なでしこ)のたしなみですもの」

 対照的な性格の親友たちは、部活を選ぶ基準も対照的だ。運動神経のいいさやかと、「さすがはお嬢さま」という珠莉。それでも仲良くできているのだから、世の中は不思議である。

 ところが、そんな珠莉にさやかが茶々(ちゃちゃ)を入れる。

「そんな優雅なこと言ってるけど、ホントはお茶菓子が食べたいだけなんじゃないのー?」

「……んなっ、そんなことありませんわ! さやかさんじゃあるまいしっ」

「どうだかねえ」

 珠莉はムキになって否定したけれど、本当のところはどうなんだろう?

(まあ、楽しめたら理由なんて何でもいいよね)

 本当に茶の湯を学びたかろうが、お茶菓子目当てだろうが、どちらでもいいと愛美は思う。

「――あら?」

「……ん?」

 〈双葉寮〉の手前まで来た時、珠莉が寮の前に(たたず)む一人の男性の姿に気がついて声を上げた。
 百九十センチはありそうな身長といい、ナチュラルブラウンの髪の色といい、あれは――。

「やあ。久しぶり」

「純也さん……」

「おっ、叔父さま!」