「――さやかちゃん、珠莉ちゃん! ただいま!」

 二週間ぶりに寮に帰ってきた愛美は、自分の部屋に入る前に、隣りの親友二人の部屋にやってきた。
 元気いっぱいの声で、二人に笑いかける。

「おかえり……。愛美、もう大丈夫なの!?」

「うん、もう何ともないよ。さやかちゃん、毎日来てくれてありがとね。心配かけちゃってゴメン」

 ビックリまなこで訊ねたさやかに、愛美は安心させるように答えた。

 あのフラワーボックスが届いた日に流した涙が、愛美の中の(わだかま)りやネガティブな心を全部洗い流してくれたのかもしれない。

「愛美さん、一度もお見舞いに伺えなくてゴメンなさいね」

「いいんだよ、珠莉ちゃん。わたしも分かるから。注射が苦手だから、予防接種受けてなかったんでしょ?」

「……ええ、まあ」

(やっぱりそうなんだ)

 愛美はこっそり思った。
 つい一年ほど前に初めて会った時には、冷たくてとっつきにくい女の子だと思っていたけれど。こうして自分との共通点を見つけると、ものすごく親近感が湧いてくる。

「――もうすっかり春だねぇ……。そしてもうすぐ、あたしたちも二年生か」

「そうだね。もう一年経つんだ」

 暖かい日が少しずつ増えてきて、校内の桜の木も(つぼみ)を膨らませ始めている。

 一年前、希望と少しの不安を抱いてこの学校の門をくぐった時は、愛美は独りぼっちだった。頼れる相手は、手紙でしか連絡を取れない〝あしながおじさん〟たった一人。もちろん、地元の友達なんて一人もいなかった。

 でも、今はさやかと珠莉という心強い二人の親友に恵まれた。他にもたくさんの友達ができた。
 もう一人でもがく必要はない。何か困ったことがあれば、まずはこの二人に話せばいい。それから〝あしながおじさん〟を頼ればいいのだ。

「――あ、そうだ。四月からあたしたち、三人部屋に入れることになったからね」