「うん……」

 まだ〈わかば園〉にいた頃、中学卒業後の進路に悩んでいた愛美に手を差し伸べてくれた唯一の人が〝あしながおじさん〟だった。他の理事さんたちは、誰一人として助けてくれなかったのに。
 高校入試の時にも、高校に入ってからも、彼は愛美に色々な形で援助をしてくれている。
 そんな(ふところ)の深い人が、こんな小さなことで愛美を見放すわけがないのだ。

「まあ、あたしもまた小まめに郵便受け覗いてみるから。あんまり悩みすぎたらまた熱上がっちゃうよ。愛美は早く病気治して、退院することだけ考えなよ。……あんまり長居するのもナンだし、あたしはそろそろ失礼するね」

「うん。さやかちゃん、毎日お見舞いに来てくれてありがとね」

「いいよ、別に。インフルエンザならあたしはもう免疫できてるし、親友だもん。珠莉も一回くらい来りゃあいいのに」

 さやかは口を尖らせた。
 愛美が入院してから、彼女は毎日病室に顔を出しているけれど、珠莉は一度も来ていない。理由は、「インフルエンザのウィルスをもらいたくないから」らしい。

「予防接種くらい受けてるはずじゃん? 友達なのに薄情なヤツ!」

「……ゴメン、さやかちゃん。わたしも予防接種は……。注射が苦手で」

 きっと珠莉も注射が苦手だから、インフルエンザの予防接種から逃げていたんだろう。愛美にはその気持ちが痛いほど分かる。

「えっ、そうだったの? ゴメン、知らなかった」

 自身は注射を打たれてもケロリンパとしていられるさやかが、知らなかったこととはいえ愛美に謝った。

「じゃあ、また明日来るね」

 さやかが病室を出ていくと、愛美は個室に一人ポツンと残された。「インフルエンザは感染症だから、隔離(かくり)が必要」ということでそうなったのだ。
 同じ一人部屋でも、寮の部屋とはまるで違う。寮なら隣りの部屋にいるさやかと珠莉が、ここにはいない。
 こうしてお見舞いには来てくれるけれど、帰ってしまうと一人ぼっちになってしまうのだ。