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『拝啓、田中太郎様
もしかして、あなたはわたしのことを迷惑だと思っていませんか? 「女の子なんて面倒くさい」って、相手をするのもばからしいって無視してるんじゃないですか?
わたしがあなたをニックネームで呼ぶのも、本当はイヤなんですよね?
そうでなかったら、あなたは何の感情も持たないロボットと同じです。名前さえ教えてくれないような、冷たい人に手紙を書いたって、わたしには張り合いがありません。
わたしの手紙はきっと、あなたには読まれていない。秘書さん止まりで、あなたは読みもしないでゴミ箱に放り込んでるに決まってます。
もしも勉強のことにしか興味がないのなら、今後はそうします。
学年末テストは無事に終わりました。わたしは学年で五位以内に入って、二年生に進級できることになりました。 かしこ
二月二十日 相川愛美 』
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――こんなバチ当たりな手紙を出した報いだろうか。愛美はこの手紙が投函された翌日、四十度の高熱を出して倒れ、付属病院に入院することになってしまった。
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「――愛美、具合はどう?」
入院してから十一日後、愛美の病室にさやかがお見舞いにやってきた。
看護師さんにベッドを起こしてもらっていた愛美は、窓の外を眺めていた。今日は朝から雨だ。
「うん、まあボチボチかな。食欲も出てきたけど」
「そっか、よかった。――コレ、今日の授業でとったノートのコピーね」
「さやかちゃん、ありがと」
愛美はお礼を言いながら、さやかがテーブルの上に置いたルーズリーフの束を取り上げた。
――愛美は四日前には体温も三十七度台まで下がり、点滴も外してもらって、お粥だけれど普通食を食べられるようになった。
でも……、一つ気がかりなことがあって、それ以上病状がよくなってはいなかった。