「ちょっとお兄ちゃん! それ、どういうイミよ!?」

 目くじらを立てた妹に、治樹はしれーっと言い返す。

「愛美ちゃんの優しさを、お前もちったぁ見習え、っつってんの」

「はあっ!?」

(……ヤバ。わたしのせいで兄弟ゲンカ始まっちゃった)

 この状況に責任を感じた愛美は、どうにかこの場を収めるためにフォローを入れた。

「あの……、治樹さん。さやかちゃんはすごく優しいし面倒見もいいですよ。わたしなんか、いつもさやかちゃんに助けてもらってばっかりだし」

「そうなんだ……。あ、じゃあさ、これからもさやかと仲良くしてやってよ。こんなヤツだけど」

「だーかーらぁ、〝こんなヤツ〟ってどういうイミなのよ!?」

「まあまあ。さやかちゃん、落ち着いて!」

 またケンカになりそうな牧村兄妹を、愛美は必死になだめた。

「――あ、姉ちゃん。おかえりー。そのお姉さん、誰?」

 愛美がさやかと治樹と一緒にリビングへ入ると、あの家族写真に写っていた父親以外の家族がズラッと揃っていた。
 そして、その中で中学一年生だというさやかの弟が口を開く。

「ただいま、(つばさ)。このコはお姉ちゃんの友達で、相川愛美ちゃんだよ」

「翼くんっていうの? よろしくね」

「っていうかアンタ、また靴脱ぎ散らかしたまんまにしてたでしょ。『脱いだ靴はちゃんと揃えなさい』って、いっつもお母さんに言われてるでしょ?」

「あ、ゴメン! 忘れてた」

 翼というさやかの弟は、ボサボサ頭を掻きながらペロッと舌を出す。

(素直なコだなぁ)

 中学生の男の子なら、反抗期に入っていてもおかしくないのに。両親の育て方がいいからなんだろうか。

(さやかちゃんも治樹さんも優しいし)

「おねえたん、おかえりなさぁい。ココたんも『おかえり』っていってるよー」

「ただいま、美空(みく)。ココもただいま」

 五歳の妹・美空に微笑みかけたさやかは、彼女が抱っこしている三毛猫の頭を撫でた。