「さやかから話は聞いてるわ。ここを自分の家だと思って、(くつろ)いでいってね」

「はいっ! ありがとうございます!」

(さやかちゃんのお母さん、いい人だなぁ)

 きっと彼女は、愛美に両親がいないことも、施設で育ったことも(さやか)から聞いているんだろう。まさに、愛美の理想の母親像そのものだ。

「ねえお母さん。お兄ちゃん、もう帰ってきてんの?」

「ええ、昨日帰ってきてるわよ。大学は冬休みが長いから」

 と、母親が言うのが早いか。

「よう、さやか! おかえり。……おっ!? キミが愛美ちゃんか。いやー。マジで可愛いじゃん♪」

 さやかの兄・治樹がリビングから玄関まで出てきて、デレデレの顔で愛美を出迎えた。

「……あー、ハイ……」

 そのあまりのチャラ()ぶりに、愛美も困惑する。というか、ドン引きしているといった方が正しいだろうか。

「もう、お兄ちゃん! やめなよ、みっともない! 愛美も引いてんじゃん! ――ゴメンね―、愛美。お兄ちゃん、こんなんで」

「ううん、大丈夫。……ただ、ちょっとビックリしたけど」

 驚いたのは本当だった。愛美は今まで、こういうチャラ男系の男性と接したことがなかったのだ。
 写真だけではそこまで分からなかったので、実際に会って初めて分かった事実に引いてしまっただけだ。

「さやか、お前なぁ……。兄ちゃんに向かって〝こんなん〟ってなんちゅう言い草だよ」

「だって事実じゃん。長男なのに頼んないし、女の子見たらデレデレ鼻の下伸ばすし。〝こんなん〟呼ばわりされても仕方ないっしょ」

 そんな愛美をよそに、兄妹で言い合い(というか漫才?)を始めたさやかたちに、愛美は思わず吹き出した。

「はははっ、面白ーい! さやかちゃんって、お兄さんと仲いいんだね―。わたし羨ましいな」

 こうして遠慮なく言い合えるのは、実の兄妹だからだ。施設で育った愛美にとっては、こういう光景も憧れだった。