(えーっと、どこだったかなぁ……? う~ん……)

 愛美は自分の記憶を一生懸命たどっていく。高校に入ってからではないはずだから、多分その前だ。きっと、まだ施設にいた頃――。

「……あ、思い出した!」

「えっ、どこで見たか分かったの?」

「うん。わたしね、施設にいた頃によく理事さんたちの車眺めながら空想してたの。自分があのリムジンに乗って、お屋敷に帰っていくところ。その中に、ここにそっくりなお家が出てきてたんだ」

 ……そうだ。この家の外観は、あの時の空想に出てきた豪邸にそっくりだったのだ。
 あの頃の愛美は、こんな大きな家に住むことに憧れていた。その光景が今、現実に自分の目の前にある。厳密には、友達の家だけれど。

「そうなんだ? けどまあ、ウチは立派なのは外観だけで、中はホントに普通の家と変わんないよ? 珠莉の家の方がずっと豪華(ごうか)なんじゃないかな。あたしも行ったことないけど」

「そうなの? あんまり立派すぎると、わたし萎縮(いしゅく)しちゃうな……」

「まあ、そうなるかもね。とにかく中入ろ? ――お母さーん、ただいまぁ! 友達連れてきたよー」

 さやかが玄関のドアを開け、愛美にも「おいでおいで」と手招き。愛美は「おジャマしまーす」と礼儀よく声をかけ、玄関の三和土(たたき)で脱いだウェスタンブーツをキレイに揃えた。ついでに、さやかの編み上げショートブーツも揃えておく。

「さやか、おかえりなさい。あら! 愛美ちゃんね? いらっしゃい」

「はい。冬休みの間、お世話になります」

 出迎えてくれたさやかの母親に(写真を見せてもらっていたので、顔は覚えていた)、愛美は丁寧に頭を下げた。
 彼女は四十代半ばくらいで、髪はサッパリとしたショートボブカット。身長はさやかとほぼ同じくらいに見える。千藤農園の多恵さんや〈わかば園〉の聡美園長に似た、優しそうで温厚そうな顔立ちだ。