「ねえ、珠莉ちゃんはどうやって東京に帰るの? 電車で?」

 愛美は珠莉に訊ねる。もしも電車で帰るのなら、途中までは自分たちと一緒かな、と思ったのだけれど。

「いいえ。校門の前まで迎えの車が来ることになってるわ。お抱えの運転手がハンドルを握ってね」

「お抱えの運転手…………。アンタん家ってマジでスゴいわ」

 さやかが思わず漏らした感想に、愛美もコクコクと頷く。

(わたし、そんな車って施設の理事さんたちの車しか見たことない……)

 しかも、「あれに乗ってみたい」と憧れを込めた空想を膨らませて、だ。

「……ねえ、もしかして純也さんにもいるの? お抱えの運転手さん」

 彼だって一応、辺唐院一族の一人である。他の親族との折り合いは悪いと聞いたけれど、その辺りはどうなんだろう?

「いないと思いますわよ。純也叔父さまはご自分で運転なさいますから。乗用車だけじゃなくて、バイクも」

「そうなの? カッコいいなぁ」

 彼が車を運転する姿は想像がつくけれど、バイクに乗る姿までは想像がつかない。

「愛美、そろそろ。ね」

 さやかは「夕方までには家に着くはず」と実家の母親に連絡を入れてあるのだ。長々とお喋りをしていたら、着くのが遅くなってしまう。

「……あ、そうだった。じゃあ珠莉ちゃん、よいお年を。また三学期にね」

「よいお年をー」

「ええ、よいお年を。来年もよろしくお願い致しますわ」

 愛美とさやかの二人は、そこで珠莉と別れて新横浜の駅に向かった。

「――ねえ、お昼ゴハンはどうする? 品川駅前にある美味しいお店、あたし知ってるけど」

 総武線の車両に揺られながら、二人は昼食の相談をしていた。

「えっ、そうなの? じゃあ、そこでお昼にしようかな。わたし、東京のお店は知らなくて」

「あれ? 夏休みに長野行った時、東京駅で乗り換えたんじゃなかったっけ?」

 さやかの言う通り、愛美が東京に立ち寄るのはこれで二度目なのだけれど。