――あの十万円が贈られてきた日の午後、愛美は街に買い物に出かけた。
 
『それだけの金額あったら、欲しかったもの何でも買えるんじゃない?』

 というさやかの提案に乗り、自分へのクリスマスプレゼントをドッサリ買い込むことにしたのだ。

 ひざ掛けのブランケットに腕時計、大好きな作家の本をシリーズで大人買い。暖かそうなモコモコのルームソックス、新しいブーツ、洋服。そして……、テディベア。

『わぁー、ずいぶんいっぱい買い込んできたねえ。……っていうか、他のものは分かるけど、なんでテディベア?』

『実は、前から欲しかったの。施設にいた頃、毎年理事さんからのクリスマスプレゼントの中に可愛いテディベアがあったんだけど、わたしは遠慮して小さい子たちに譲ってあげてたんだ』

 自分はお姉さんだから……、と遠慮して、自分は欲しいものをもらわなかった。本当に、自分はさやかに言われた通りの甘え下手だと愛美も思ったのだった。

 そして、それだけの買い物をしても、まだまだ大きな金額が愛美の手元に残っていた。

****

 ――それから五日が過ぎ、あっという間に冬休み。

「愛美ー、そろそろ出よっか」

 時刻は午前十時。夏休み前とは違い、すっかり荷作りを終えた愛美の部屋に、さやかが呼びに来た。

「うん、そうだね。電車で行くんだよね?」

「そうだよ。品川(しながわ)駅から乗り換えるの。今日は新幹線には乗らないからね」

 新幹線なら、新横浜から一駅で品川に着くけれど。たった一駅を新幹線で行くのはもったいないので、今回は「総武(そうぶ)線で行こう」ということになったのだ。

「あたしの家、浦和(うらわ)駅からわりと近いから。そこからは歩きでも十分行けるんだよ」

「へえ、そうなんだ」

 二人がスーツケースと大きめのバッグを(たずさ)えて愛美の部屋を出ると、ちょうど東京の実家に帰ろうとしてる珠莉と合流した。