「あ、はい。後ろ姿だけチラッとですけど……。あの方、理事さんなんですか?」

「ええ。二年くらい前に理事になられて、この施設に多額の援助をして下さってる方なの。ただ、ご事情がおありだとかで、本名は伏せてほしいって言われてるんだけれど」

「はあ……、そうなんですか」

 愛美は面食らった。先ほど見かけただけのあの理事は、聞いた限りではちょっと変わり者のようだ。
 けれど、園長先生だってわざわざ「あの理事さん、変わっててねえ」なんて世間話をするためだけに愛美を呼んだわけではないだろう。

「あの方、これまでここの男の子たちには目をかけて下さって、二人ほどあの方のおかげで進学できた子がいるの。ただ、女の子はその対象からは外れてたのよ。理由は分からないけれど、もしかしたら女の子が苦手なのかしらねえ」

「はあ……」

 愛美が何だかよく分からない相槌(あいづち)を打っていると、園長はガラリと口調を変え、真剣そのものの表情で愛美に訊いた。

「愛美ちゃん。あなたは確か、進学を希望してるんだったわね?」

「……はい。難しいっていうのはよく分かってますけど」

 愛美もいよいよ本題に入ったのだと察し、姿勢を正して答えた。

「実は今日、あなたの担任の先生からお電話を頂いてね。今日の理事会でも、あなたの進路について急きょ話し合うことになったの」