「――愛美、どしたの? 表情暗いよ?」

 ずーんと一人沈み込んでいる愛美を見かねてか、さやかが心配そうに顔を覗き込んできた。

「……あー、ううん! 何でもない」

(ダメダメ! ネガティブになっちゃ!)

 愛美は心の中で、そっと自分を叱りつける。さやかは心の優しいコだ。余計な心配をかけてはいけないと、自分に言い聞かせた。

「そう? ならいいんだけどさ。――そういえば、愛美は冬休みどうすんの? 夏休みみたいにまた長野に行くの?」

「う~ん、どうしようかな……。冬場は農業のお手伝いっていっても、そんなにないだろうし。それに寒そうだし」

 長野県といえば、日本屈指の豪雪(ごうせつ)地帯である。あの農園はスキー場にも近いので、それこそ降雪量もハンパな量じゃないだろう。

「だよねえ……。あ、じゃあさ、冬休みはウチにおいでよ」

「えっ、さやかちゃんのお家に? ……いいの?」

 思ってもみなかった親友からのお誘いに、愛美は遠慮がちに訊いた。
 中学時代はよく友達の家に遊びに行ったりもしていたけれど、それは同じ学区内で近かったからだった。
 でも、高校に入ってからできた友達の家に招かれたのは、これが初めてだ。

「うん、モチのロンさ☆ ウチの家族がね、夏にあたしのスマホの写メ見てから、愛美に会いたがっててね。特にお兄ちゃんが、『一回紹介しろ』ってもううるさくて」

 ちなみに、さやかが言っている〝写メ〟とは入学してすぐの頃に、クラスメイトの藤堂(とうどう)レオナがさやかのスマホで撮影してくれたもので、真新しい制服姿の三人が写っている。

「……お兄さんが? って、この写メに写ってるこの人だよね?」

 肩をすくめるさやかに、愛美は自分のスマホの画面を見せた。その画面には、夏休みに彼女が送ってくれた家族写真。そのちょうど中央に、大学生だという彼女の兄が写っているのだ。