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 ――そして、翌日の放課後。

「じゃあ、さやかちゃん。ちょっと行ってきます!」

 文芸部の部室の前で、愛美は原稿が入った茶封筒を抱え、付き添ってくれたさやかに宣言した。

「うん、行っといで。あたしはここで待ってるから」

 さやかに背中を押され、部室のスライドドアを開けようとするけれど、ためらってしまう。

(うわぁ……、緊張するなあ。でも、頑張れわたし!)

 深呼吸して、もう一度スライドドアに手をかけた。

「……失礼しまーす」

「はい? ――あ、入部希望者?」

 出てきたのは、ポニーテールの落ち着いた感じの女の子。多分、三年生だと思われる。彼女の左腕には〝部長〟と刺しゅうが入った白い腕章がある。

「あ……、いえ。入部の予定はないんですけど。――あの、わたし、一年三組の相川愛美っていいます。コレ、短編小説のコンテストに出したいんですけど……」

 緊張でしどろもどろになりながら愛美は答え、抱えていた封筒を文芸部の部長に差し出す。

「ああ、コンテストの応募ね。ご苦労さま。確かに受け付けました」

 彼女は愛美から原稿を受け取ると、笑顔でそう言った。

「部外の人の応募って珍しいのよねー。応募要項には書いてあるんだけど、なかなかハードル高いみたいで。あなたの勇気、心から歓迎するわ。結果は一月に出るから、少し待っててね」

「はいっ! よろしくお願いしますっ! じゃ、失礼します」

 部室を出た愛美は、書き上げた時以上の達成感を感じながら、意気揚々(ようよう)とさやかの元へ。

「おかえり。――ちゃんと渡せた?」

「うん! ちょっと緊張したけど、なんとか」

「そっか、お疲れ。よく頑張ったね、愛美! じゃあ帰ろ」

 実は、初めて上級生と話したのでものすごく勇気が要ったのだ。そんな愛美は、自分の頑張りをさやかが(ねぎら)ってくれたことがすごく嬉しかった。