千藤夫妻には子供がいない、と愛美は聞いた。我が子も同然の純也さんから譲り受けたあの広い土地を、早く有効活用したいと思った多恵さんの気持ちは、愛美にも分かる。

「確か純也さん、中学卒業まではよく多恵さんたちに会いに行ってたって聞いたよ。その頃にはもう、農業始めてたんじゃないかな」

 珠莉が生まれたのが十六年前。その頃にはもう辺唐院家(あの家)にいなかったということは、純也さんが中学生になった頃にはもう長野に移住していたことになる。

「……私、愛美さんが羨ましいですわ。私の知らない叔父さまのことをご存じなんだもの。……あっ、別に嫉妬(しっと)じゃありませんわよ!? ただ単に姪として羨ましいだけですわ!」

(珠莉ちゃん……、なんか可愛い)

 顔を真っ赤にして、ムキになって言い訳する彼女に、愛美は好感が持てた。
 いつもはツンとしていて澄ましているけれど、こういう姿を見ると「やっぱり彼女も一人の女の子なんだな」と思うから。

「――で、珠莉ちゃん。小説の感想は?」

「えっ? ええ、面白かったですわよ。私、あなたにこんな文才があったなんて驚きましたわ」

「あ……、ありがと。二人とも、読んでくれてありがと! わたし、さっそく明日の放課後、コレ文芸部に出してくるね!」

「そっか。あ、じゃああたしも付き合ったげるよ。一人じゃ(こころ)(もと)ないっしょ?」

「いいの? さやかちゃん、ありがと!」

 頑張って書いた小説を、久しぶりに()めてもらえた。しかも、親友二人に。
 愛美にはものすごく心強くて、「これなら本当にいけるかも!」と根拠のない自信が彼女の中に(あふ)れてきていた。