(……わ、すごく背の高い人だなあ。それに……結構若い?)

 どうしてそう思ったのかは、愛美にもよく分からない。けれど、何となく「この人、そんなに年齢(とし)いってないんじゃないか」と思ったのである。

 愛美が彼の後ろ姿にしばらく見入っていると、外が一瞬パッと明るくなり、愛美は(まぶ)しさに目がくらんだ。外に迎えの車が停まり、ヘッドライトで照らされたらしい。

 次に彼女が目を開けた時、目にしたのは壁に映ったヒョロ長い影――。

(……えっ!? 待って! これって……同じだ!)

 愛美にはピンときた。『あしながおじさん』の本の中に、同じシチュエーションが登場するのだ。
 あの時、ジュディはそのコミカルな影を目にして笑い出した。愛美も笑顔になったけれど、理由は違う。

(もしかして、奇跡……起きちゃうかも!)

 ジュディのような幸運が、自分にも待っていそうな気がして嬉しかったのである。

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「――失礼しまーす……」

 家と同じなので、愛美がノックせずに園長室のドアを開けると、園長先生はニコニコ笑って彼女を待っていた。

「愛美ちゃん、待ってたのよ。お座りなさいな。急に呼んじゃって悪いわねえ」

「はい。――園長先生、わたしに何かご用ですか?」

 愛美は応接セットのソファーに、聡美園長と向かい合う形で浅く腰かけた。
 若葉(わかば)聡美園長は六十代半ばの穏やかな女性で、愛美を始めとするここの子供たちにとっては優しいおばあちゃんのような存在である。 

「ええ。あなたに大事な話があるの。――その前に、今しがたお帰りになった方、愛美ちゃんも見かけたかしら?」