「ええと、ホラ! よく言ってる、"隠世法度"とかにそんな記載があったりとかしない?」

 雅弥は心底億劫そうにフォークを置いて、

「……くだらない」

「ぜんっぜんくだらなくないっていうか、むしろ死活問題なんだけど! どうしよ、私の一歩的な思い込みだったってオチもかなり辛いけど、もしお葉都ちゃんに迷惑かけるような事態になっていたら……!」

「あははー、心配ないよお。お葉都ちゃんも彩愛ちゃんのこと、すっごく大好きだもん」

 カグラちゃんはころころと笑って、

「あ、ボクはそろそろ渉の様子見てこなきゃ。好きなだけゆっくり休んでねー」

「まってカグラちゃんお願い! もう少し詳しく教えて……っ!」

「あとは雅弥にバトンタッチー!」

「ああーいかないでー!」

 浮かべた涙の甲斐もなく、上り口でさっと靴を履いたカグラちゃんは、空を叩くように手を上げて、颯爽と行ってしまった。
 うん、まあ、お仕事中なんだから、仕方ないのはわかってるんだけども。

(……こうなったら、なんとしても雅弥に口を割ってもらわなきゃ)

 私はよしと気合を入れて、甘えてねだるようなとっておきの上目遣いで雅弥を見る。

「……ねえ、雅弥」

「俺に話をさせたいのならまずその顔をやめろ。気分が悪い」

「うそ! これ、小さい時から男女問わずの必殺技なのに」

「アンタの周囲は総じて趣味が悪いな」

 鼻の頭に皺を寄せ、口直しとでも言いたげに雅弥はコーヒーを口にする。
 おっかしいな……。
 頭をひねっていると、陶器のティーカップをソーサーに戻し置いた雅弥が、わかりやすく渋々と口を開いた。

「……あののっぺらぼうがアンタをどう捉えているかはさておき、あやかしとヒトが友好関係を結んではならないといった掟はない」

「あ、なんだよかった」

「だが、何処まで行ってもあやかしはあやかし、ヒトはヒトだ。本質が違う。故に"本当の意味での"友好関係を築くのは不可能だというのが、隠世での通説だ」

「……つまり一見、友好関係にあるように思えても、実際は利害関係が一致しているとか、そういう別の意図の上で成り立っているってこと?」

「そういうことだ」

「なるほどねえ……」

 おざなりに差し込んだスプーンが、器の壁を叩いてコツリと鳴った。
 あ、と視線を落とした先には、溶けかけたアイスに埋まる、カットされたくろいちご。

 ――利害関係の上に成り立つ、友好関係。
 それを言うのなら、人間同士の"友達"だって、大半はそんなもんだろうに。