喉を通ってからも口内に香る、芳醇な甘さ。
 私は未だ渦巻く衝撃の名残を辿るようにして、再び苺の一つを、今度は艶めいた抹茶アイスと共にすくい取った。
 口に入れる。舌上で、深い渋みと濃い苺の果肉が混ざって、また知らない感動が口内で溶けていく。

「どうしよう、すごく美味しい……!」

 思わず頬に手をやりながら郭くんを見遣ると、彼も同意見のようで、こくこくと首を縦に振った。
 白い頬が薄く色づく。

「……こんなにおいしい甘味が作れるなんて、あのヒト、すごいね」

「でしょでしょー! 渉さんの作るスイーツは和洋折衷な見た目はもちろん、味もこう、特にフルーツとの組み合わせが絶妙なのよねー」

 それに、と。私はこれまで口にしてきた数々のスイーツをうっとりと思い浮かべつつ、艶めく抹茶アイスを、白玉と餡子に絡めてすくい、

「渉さんのスイーツは、いろんな地域の美味しい素材を使っているのよねえ。だから浅草にいてもちょっとした旅行気分が味わえて、二度おいしかったり」

 宇治、といえば京都。
 今度は学生時代に行ったきりの京都へ思いを馳せながら、はむ、ともちもちの白玉を食んだその時、

「そういってもらえると、ボクも救われるよ」

「ん? カグラちゃん?」

 慣れた仕草で上がってきたカグラちゃんが、「はい、雅弥」と、先ほど要求されていた抹茶ロールケーキとコーヒーを置く。
 見れば抹茶生地に挟まれたクリームは淡くくすみ、黒い大納言がたっぷりと混ぜ込まれている。

「……おいしそー。次に来た時、それオーダーするのもありかも」

「ふふ、渉に伝えておくよ。『忘れ傘』のメニューは気まぐれだからねえ。ちなみに秋になると、中身に栗の甘露煮が追加されたりするよ」

「栗まで!? あー、絶対美味しいやつ……! どうしよう、既に秋が待ち遠しいのだけど……うん、やっぱり今のうちにスタンダードな抹茶のロールケーキも楽しんでおくべきね」

「……秋まで通うつもりか」

「え? 秋どころか冬も越えて、来年の春からも楽しみにしているのだけど?」

途端、雅弥は呆れたように双眸を細め、

「アンタ……どれだけ通い詰める気なんだ」

「どれだけって……うーん、私が満足するまで?」

「そーゆーコトなら、彩愛ちゃんに飽きられないように、ボクももっと頑張ろーっと! まだまだ彩愛ちゃんとお話ししたいしね」

「え、私だってまだまだカグラちゃんたちとお話したいし、正直『忘れ傘』に飽きるなんて想像がつかないのだけど……!」