渉さんは残念そうな苦笑を浮かべ、

「俺、あやかしが見えないんです。ご挨拶もなく不躾で申し訳ありませんが、こちら、良かったら食べてやってください」

 郭くんの前に、私と同じ抹茶パフェとダージリンのセットが置かれる。

「……あの、本当にいいの?」

 私と雅弥の顔を順に見て尋ねる郭くんの目には、明らかな戸惑い。
 私は「うん」と頷いて、

「雅弥がいいって言ってるんだもの。遠慮はなしなし。あ、もしかして、抹茶が苦手とか?」

「……ううん、嬉しい」

 郭くんは今度こそ笑みを咲かせ、雅弥を見た。

「……ありがとう」

「……気分じゃなかっただけだ。渉、抹茶のロールケーキはまだあるか?」

「はい、ありますよ。飲み物は何をお持ちしますか?」

「コーヒー」

「かしこまりました。直ぐにお持ちしますね」

 雅弥の偉そうな注文にもなんのその、どこか誇らし気な笑みを携えて、渉さんが厨房に戻っていく。
 予想するに、雅弥から注文を受けて嬉しいとか、そんな辺り。あとは雅弥があやかしにパフェを譲った行為に、「さすが雅弥様! お優しい!」と拍手喝采雨あられとか。

(渉さんは雅弥至上主義だからなあー)

 私も雅弥が連れてきたってだけで、その恩恵を受けている身なわけだけど。

(おかげさまでこんなに素敵なパフェとも巡り合えちゃったんだから、私も雅弥に感謝しないとなあ)

 心の中でありがたい、ありがたいと両手を合わせつつ、私は早速とスプーンを手にした。

「さ、頂きましょ。アイスが溶けちゃうし」

 どこかまだ遠慮がちにパフェと見つめ合っていた郭くんが「……うん」と頷く。
 細い指がやっとのことでスプーンを手に取ったのを確認して、私は「いただきます」とパフェに向き直り、抹茶アイスにちょこんと座る苺をひとつすくった。

(これが"くろいちご"……)

 思えば苺の断面は白みがかっていたはずだけれど、この子は内側も赤い部分が多い。
 未知との遭遇……とはいっても、苺は苺なのだから、きっとすっごく甘いとか、後味爽快果汁たっぷり苺! とかかな?
 そんな予測を立てながら、私はえいやと口にした。
 噛みしめて、衝撃が走る。

「……え、え?」

 酸味が、ない。のに、すっごく濃厚な苺の味。
 そう、苺。なのだけど、これは……ちょっと、食べたことがない、まったく新しい"苺"のよう。
 噛みしめるたびにたっぷりの果汁が溢れて、その一滴一滴に、苺の甘味が凝縮されている。