そう力強く宣言した途端、渉さんは悲し気に眉をへにょりと下げて、

「俺の"厚意"は、ご迷惑でしたか?」

「いえ、違います。お気持ちはすっごく嬉しいんですけれど、私のためにこの苺を取っておいてもらえたってだけで、充分ありがたいというか……!」

「やはり、このような"お祝い"では、押しつけがましいですよね……」

「押しつけがましいだなんて、まさか! 本当に感謝してもしきれないぐらい、嬉しくってたまらない気持ちで――」

「それはつまり、彩愛様は俺からの"お祝い"を、喜んで受け取ってくださると……?」

「もちろんです! 心から喜んで――って、ん?」

「ありがとうございます、彩愛様。やはりお優しいですね。さ、お代を頂いては"お祝い"になりませんので、どうぞこのままお受け取りください」

 ……これはもしかして、上手いこと言い包められちゃった感じでは?

「……やりますね、渉さん」

「お褒めにあずかり、恐縮です」

 にこりと向けられたのは、裏のない、柔和な笑顔。

「パフェの中央部には、くろいちごのピューレを挟んでみました。ちなみにピューレも、砂糖や甘味料は一切なしの100%くろいちごです。俺が説明するよりも実際に食べて頂いたほうが早いと思うので、ぜひご賞味ください」

 渉さんはそう告げつつ、パフェの横にティーセットを置いて、

「勝手ながら、お飲み物はダージリンのファーストフラッシュをご用意させていただきました。爽やかですっきりとした味わいが餡子に合いますし、抹茶の渋みとも相性がいいので、ぜひこちらでお試しいただければ」

「うう……ありがとうございます、渉さん。何から何まで……」

「いえ。全て俺の一存でご用意してしまったものですし、彩愛様のお口に合うといいのですが……」

「私、本当に『忘れ傘』のスイーツはどれも好きで。だからこのパフェも、絶対に美味しいーってなる自信しかないです!」

「そう言って頂けると、嬉しいです」

 言葉通り嬉し気に頬を綻ばせた渉さんが、私と同じセットを「雅弥様も、ぜひ」と置こうとした。
 途端、すかさず雅弥が、

「俺は、いい。そこのヤツに渡してくれ」

「そこのヤツ、ですか?」

 不思議そうにしながら、きょろきょろと周囲を確認する渉さん。
 雅弥は私の隣に視線を投げて、

「そこに、あやかしがいる」

「え! そうだったんですか? すみません、失礼しました」

 慌てて下がった頭を見て、郭くんも即座に「……僕こそ、ごめんなさい」と頭を下げる。
 けれども渉さんには、見えてもいなければ、声も聞こえていない。