「あのっ、ほんとうに、ごめんなさい……っ!」
「へーきへーき! 三人でちゃちゃっとやれば、一瞬よ!」
「まて、俺は絵を戻せと言われただけのはずだが」
「さーあ、どうやろうかなー? 下から一個ずつ拾っていくより、上から落としていって、最後に下で回収したほうが早そうね」
「おい」
「あ、雅弥は絵の取り付けおわったら、なんかいい感じの袋か容器を持ってきてくれる? 上の部屋も、念のため見に行くでしょ? そのついででいいから」
「……本当に自由だな、あんたは」
「え? いかないの?」
「……いく」
よし、これで分担もおっけー。
ったく、人使いが荒いだのなんだの小言が聞こえるけど、うん、気のせい気のせい!
「それじゃ、私たちも上がろっか」
気合ばっちりで少年に視線を落とすと、
「……上がるのは、僕がいくよ。一段ずつ落としていくから、あなたはここで待ってて」
「え、私も上がったほうが……」
「落ちたビー玉が転がって、たたきに落ちてしまうかもしれないから。……割れてしまうかも」
「……確かにそうね」
私の納得を見た少年が「おねがい」と告げて、まだビー玉やおはじきが散らばったままの階段をひょいひょい上がっていく。
そういえば、私を助けるために上階の手すりから飛び降りたって聞いたけど……。
(あやかしって、こんなに軽々と動けるものなのねえ)
お葉都ちゃんはどちらかというと、常におしとやかで優美って風だし……。
(ん? そういえば)
まだ、お名前聞いてない。
気づいた私はちょっと声を張るようにして、
「ねえ、お名前聞いてもいい? 私は彩愛っていうの」
階段上に辿りついた少年が、振り返って嬉し気に薄く笑む。
「僕は、郭。……ぬりかべっていう、あやかし」
「え、ぬりかべってあの、大きな壁みたいなぬりかべのこと?」
「……それは、ヒトを脅かすための姿だから。今は、隠世でも、こっちの姿の方が多い」
「そうなんだ……あやかし事情も色々あるのね……」
まさか人を脅かすための姿と普段用が、別だったなんて……。
「……それじゃあ、落とすね」
両膝をついた郭くんは、階上に散らばるビー玉とおはじきを寄せ集め、階段にそっと落とした。
パタパタと乾いた音をたてて、勢いづいたビー玉がもう一段を落ちたり、その衝撃で別のビー玉やおはじきが転げ落ちたり。
あらかたが静まったところで、郭くんが上段のビー玉たちを、再び両手で端に寄せて慎重に落とす。
ぱたぱた、ぱたぱた。
「…………あ」
「……どうかした?」
「あ、ううん! なんでもないから続けて!」
「……うん」
ちょっと不安げにしながらも、郭くんがまたビー玉たちを落としてくれる。
絵を戻し、階段を上るタイミングを見計らっていた雅弥が、怪訝な視線を向けてきた。
私はなんでもない、と首を振ってごまかす。
(……だって)
淡く輝くガラス玉が落ち行く光景が、まるで、家が泣いてるように見えただなんて。
毒にも薬にもならならない、夢見心地な空想を抱きながら、私は胸中でひっそりと"さようなら"を呟いた。
「へーきへーき! 三人でちゃちゃっとやれば、一瞬よ!」
「まて、俺は絵を戻せと言われただけのはずだが」
「さーあ、どうやろうかなー? 下から一個ずつ拾っていくより、上から落としていって、最後に下で回収したほうが早そうね」
「おい」
「あ、雅弥は絵の取り付けおわったら、なんかいい感じの袋か容器を持ってきてくれる? 上の部屋も、念のため見に行くでしょ? そのついででいいから」
「……本当に自由だな、あんたは」
「え? いかないの?」
「……いく」
よし、これで分担もおっけー。
ったく、人使いが荒いだのなんだの小言が聞こえるけど、うん、気のせい気のせい!
「それじゃ、私たちも上がろっか」
気合ばっちりで少年に視線を落とすと、
「……上がるのは、僕がいくよ。一段ずつ落としていくから、あなたはここで待ってて」
「え、私も上がったほうが……」
「落ちたビー玉が転がって、たたきに落ちてしまうかもしれないから。……割れてしまうかも」
「……確かにそうね」
私の納得を見た少年が「おねがい」と告げて、まだビー玉やおはじきが散らばったままの階段をひょいひょい上がっていく。
そういえば、私を助けるために上階の手すりから飛び降りたって聞いたけど……。
(あやかしって、こんなに軽々と動けるものなのねえ)
お葉都ちゃんはどちらかというと、常におしとやかで優美って風だし……。
(ん? そういえば)
まだ、お名前聞いてない。
気づいた私はちょっと声を張るようにして、
「ねえ、お名前聞いてもいい? 私は彩愛っていうの」
階段上に辿りついた少年が、振り返って嬉し気に薄く笑む。
「僕は、郭。……ぬりかべっていう、あやかし」
「え、ぬりかべってあの、大きな壁みたいなぬりかべのこと?」
「……それは、ヒトを脅かすための姿だから。今は、隠世でも、こっちの姿の方が多い」
「そうなんだ……あやかし事情も色々あるのね……」
まさか人を脅かすための姿と普段用が、別だったなんて……。
「……それじゃあ、落とすね」
両膝をついた郭くんは、階上に散らばるビー玉とおはじきを寄せ集め、階段にそっと落とした。
パタパタと乾いた音をたてて、勢いづいたビー玉がもう一段を落ちたり、その衝撃で別のビー玉やおはじきが転げ落ちたり。
あらかたが静まったところで、郭くんが上段のビー玉たちを、再び両手で端に寄せて慎重に落とす。
ぱたぱた、ぱたぱた。
「…………あ」
「……どうかした?」
「あ、ううん! なんでもないから続けて!」
「……うん」
ちょっと不安げにしながらも、郭くんがまたビー玉たちを落としてくれる。
絵を戻し、階段を上るタイミングを見計らっていた雅弥が、怪訝な視線を向けてきた。
私はなんでもない、と首を振ってごまかす。
(……だって)
淡く輝くガラス玉が落ち行く光景が、まるで、家が泣いてるように見えただなんて。
毒にも薬にもならならない、夢見心地な空想を抱きながら、私は胸中でひっそりと"さようなら"を呟いた。