「……もしかして、ずっとこの家が壊されないようにって守っていたの?」
だから、人が入れないようにって、"怪異"を起こしていた……?
訊ねた私に、少年は俯いたままこくりと首肯して、
「……だって僕には、"通さない"しかできないから」
ぽつりと落とされた声は、自身は無力だと嘆くよう。
「……どうして壊されたくないのか、聞いてもいい?」
ゆるゆると顔を上げた少年が、懐かしむように双眸を細めて、階段を見遣る。つられて私も視線を向けた。
散らばったビー玉やおはじきたちが、僅かな光を反射して煌めき、なんだか海の水面を思わせる。
「……ここは、あの人の宝物だったから」
階段下で腕を組み、静観を貫く雅哉の眉が、微かに跳ねたような気がした。
「あの人って……亡くなったお爺さんのこと?」
問いかけに、少年の肩が薄く揺れた。悲哀に満ちた瞳が振り返る。
「本当は、帰ってきてほしい。でも、できないの、知ってる。だから、僕がここを守る」
決意と哀愁をまとう小さな身体に、玄関先で飼い主の帰宅を待ち続ける子犬の姿が重なる。
どうにもできない切なさに胸がチクりと痛んだけれど、同じだけ、疑問がわいた。
――どうして彼は、この"家"に執着するのだろう。
可能性として考えられるのは、二つ。
一つ目は、お爺さんと仲が良く、生前にそうしてほしいと頼まれている場合。
二つ目は、この少年にとって大切な"何か"が、この建物に存在している場合。
「……お爺さんがこの家を守ってほしいって、あなたに頼んだの?」
探偵でもない私には、回りくどい誘導尋問なんてさっぱり浮かばない。
ならばと直球で問うと、少年は「……ううん」と首を振った。
「それじゃあ、この家にあなたの大切なモノがあるの?」
「僕の、大切……?」
面食らったようにして目を丸めた少年は、数秒して胸をぎゅうと握り、
「大切、だった。あの人も、あの人が愛したこの家も。……ここにあるものが全部、僕には、大切だったんだ」
その呻きはまるで、今はじめて自覚したかのような。
「僕は、消えちゃいたい」
眉根をきつく寄せた少年の目じりから、つう、と雫が一筋つたう。
「ずっと、温かかったのに、今はすごく、苦しい。なくなってしまいたい。でも僕が消えたら、ここも、消えちゃう。だから、だめ」
掠れた声に、ひゃくりあげる音が混じる。
「僕は……っ、僕は、わからない。消えたい、でも、守りたい。だって僕にはもう、それしか出来ないから」
とうとう両目から涙を溢れさせて、少年はそこで言葉を止めた。
だから、人が入れないようにって、"怪異"を起こしていた……?
訊ねた私に、少年は俯いたままこくりと首肯して、
「……だって僕には、"通さない"しかできないから」
ぽつりと落とされた声は、自身は無力だと嘆くよう。
「……どうして壊されたくないのか、聞いてもいい?」
ゆるゆると顔を上げた少年が、懐かしむように双眸を細めて、階段を見遣る。つられて私も視線を向けた。
散らばったビー玉やおはじきたちが、僅かな光を反射して煌めき、なんだか海の水面を思わせる。
「……ここは、あの人の宝物だったから」
階段下で腕を組み、静観を貫く雅哉の眉が、微かに跳ねたような気がした。
「あの人って……亡くなったお爺さんのこと?」
問いかけに、少年の肩が薄く揺れた。悲哀に満ちた瞳が振り返る。
「本当は、帰ってきてほしい。でも、できないの、知ってる。だから、僕がここを守る」
決意と哀愁をまとう小さな身体に、玄関先で飼い主の帰宅を待ち続ける子犬の姿が重なる。
どうにもできない切なさに胸がチクりと痛んだけれど、同じだけ、疑問がわいた。
――どうして彼は、この"家"に執着するのだろう。
可能性として考えられるのは、二つ。
一つ目は、お爺さんと仲が良く、生前にそうしてほしいと頼まれている場合。
二つ目は、この少年にとって大切な"何か"が、この建物に存在している場合。
「……お爺さんがこの家を守ってほしいって、あなたに頼んだの?」
探偵でもない私には、回りくどい誘導尋問なんてさっぱり浮かばない。
ならばと直球で問うと、少年は「……ううん」と首を振った。
「それじゃあ、この家にあなたの大切なモノがあるの?」
「僕の、大切……?」
面食らったようにして目を丸めた少年は、数秒して胸をぎゅうと握り、
「大切、だった。あの人も、あの人が愛したこの家も。……ここにあるものが全部、僕には、大切だったんだ」
その呻きはまるで、今はじめて自覚したかのような。
「僕は、消えちゃいたい」
眉根をきつく寄せた少年の目じりから、つう、と雫が一筋つたう。
「ずっと、温かかったのに、今はすごく、苦しい。なくなってしまいたい。でも僕が消えたら、ここも、消えちゃう。だから、だめ」
掠れた声に、ひゃくりあげる音が混じる。
「僕は……っ、僕は、わからない。消えたい、でも、守りたい。だって僕にはもう、それしか出来ないから」
とうとう両目から涙を溢れさせて、少年はそこで言葉を止めた。