反論しようと顔だけで振り返ると、雅弥は相も変わらず険しい表情で、

「なら、その見た目に絆されたか? いいか、あやかしの見てくれってのはさっぱりあてに――」

「そうじゃなくて! いやちょっとは、それもあるけど……っ」

 ほらみろ、と言わんばかりの視線が痛い。でもここで怯んだら、この子は"祓われて"しまう。
 私は意図的に雅弥の双眸を睨め上げ、

「この子、私を助けてくれたじゃない。それに、ごめんなさいって言ったの。それって、自分が"悪いこと"をしてるって自覚も、罪悪感もあるってことでしょ? ……事情が、あるんだと思う」

「……仮にそうだとしても、俺は"祓い屋"としてここに居る。このままコイツを逃すわけにはいかない」

 うん、雅弥の言い分はもっともだと思う。おまけに今回は、新垣さんからの依頼なんだもの。
 私の……お葉都ちゃんの時とは、ワケが違う。
 けれどだからって、このまま斬ってお終いってのも、違う気がする。

「……わかってる。けど、お願い。この子と話をさせて」

「…………」

 両目を細める雅弥に漂う、心からの不満。
 視線を私から少年へとずらした雅弥は、

「……事情がどうであれ、コイツがヒトに混乱を与えた事実は消せない。俺が祓わずとも、隠世法度にのっとり罰を受けることになる」

 腕の内で、少年の肩がびくりと跳ねた。
 雅弥は眉間の皺ひとつ消さず、再び私へと双眸を向け、

「救えないとわかっていて、それでも知りたいと言うのか」

 ――隠世法度。
 以前も聞いたその詳細を、私はなに一つ知らない。
 ここで雅弥を説得出来たとて、この怯えた猫のように縮こまっている彼が、これからどんな罰を、どれだけ受けなければならないのかも。

 けれど"あやかし"であるこの子は、きっと知っている。
 知っていて、それでも尚、この家でひとり他者を拒み続けていた。
 ――いったい、何のために。
 彼がその身を挺する理由を、私は知りたい。

「……うん。お願い、雅弥」

 これは私の身勝手な我儘。だって私は、あやかしから自分の身ひとつ守れない。
 もし、この子が敵意を剥き出しにして襲ってきたとしたら、雅弥はきっとその身を投げ出してでも私を守ってくれるのだろう。
 信頼という名の確信。
 だから私は、先に謝った。

「……迷惑かけて、ごめん」

 迷惑をかけないと誓ったのに、けっきょく、私はどこまでも自分勝手。