足元はビー玉とおはじきの洪水。下手に動けば、きっと足を滑らせる。
でも、このままじゃ絵が頭の上に――。
「――彩愛っ!」
それは、ほとんど反射的。
斜め掛けの鞄を右手に滑らせクッションにしながら、頭上に落ちてきた絵の落下速度に合わせて膝を折り、軌道を変えて受け流す。
コツは受け止めようとするのではなく、衝撃を利用ながら、あくまで"方向を変える"ことだけを目的に。
ガツンッ! と。
鈍い音をたて、数段下の段差に落下した額縁は、勢いのまま階段下に滑り落ちていった。
私は唖然としている雅弥を得意げに見上げ、
「いったでしょ? "運動神経"はいいほうだって。これくらいの落下物なら余裕で――って、マズいやっちゃった!」
私は跳ね上がる勢いで階下を振り返り、
「額縁はともかく絵が破れちゃってたらどうしよう……っ!」
鞄を肩に戻しながら慌てて踏み出した背後から、「あ、オイ!」と焦ったような声がした。が、時すでに遅し。
自重を乗せた足の裏が、ガッチリとでこぼこを踏みしめた。
「――わっ!?」
ずるりと滑る足。
視界が階下の絵から、ぐらりとさらに傾いた。
――落ちるっ!
(私のばかー!)
咄嗟に腕を顔前で合わせ、予感した衝撃を覚悟して目を閉じた。刹那。
「……あ、あれ?」
ピタリと止まった身体。
痛みは……ない。というか、そもそも倒れ落ちた感覚すら……。
奇妙な異変に、そろりと両目を開ける。
と、視界に入ったのは錦糸のような灰色の髪。その隙間から覗く、耳についた小さな石が、きらりとその身を輝かせた。
「っ、あなたは――」
私のお腹を抱き留めていた少年が、顔を上げた。
途端、くしゃりと顔を歪め、
「……ごめんなさい」
「え……?」
小さくこぼされた謝罪にたじろぐと、
「――そのまま捕らえていろ」
「! まさ……っ」
いつの間にかすぐ後ろまで降りてきていた雅弥が、私に棟を向けるようにして、上部から少年に切先を向けた。
獲物を捉えた獣のごとく、ギラリと光を走らせる"薄紫"。
少年が、怯えたように身体を震わせた。
「――ちょ、ちょっと、ストップ!」
「!」
少年を庇うようにして抱きしめると、頭上から不機嫌めいた雅弥の声が降ってくる。
「すべての元凶はそのあやかしだ。この"玩具"をばら撒いたのも、その振動で絵が落ちたのも。念のため言っておくが、ソイツはここに住んでいた"お爺さん"でもないぞ」
「それは、わかってるけど……っ」
でも、このままじゃ絵が頭の上に――。
「――彩愛っ!」
それは、ほとんど反射的。
斜め掛けの鞄を右手に滑らせクッションにしながら、頭上に落ちてきた絵の落下速度に合わせて膝を折り、軌道を変えて受け流す。
コツは受け止めようとするのではなく、衝撃を利用ながら、あくまで"方向を変える"ことだけを目的に。
ガツンッ! と。
鈍い音をたて、数段下の段差に落下した額縁は、勢いのまま階段下に滑り落ちていった。
私は唖然としている雅弥を得意げに見上げ、
「いったでしょ? "運動神経"はいいほうだって。これくらいの落下物なら余裕で――って、マズいやっちゃった!」
私は跳ね上がる勢いで階下を振り返り、
「額縁はともかく絵が破れちゃってたらどうしよう……っ!」
鞄を肩に戻しながら慌てて踏み出した背後から、「あ、オイ!」と焦ったような声がした。が、時すでに遅し。
自重を乗せた足の裏が、ガッチリとでこぼこを踏みしめた。
「――わっ!?」
ずるりと滑る足。
視界が階下の絵から、ぐらりとさらに傾いた。
――落ちるっ!
(私のばかー!)
咄嗟に腕を顔前で合わせ、予感した衝撃を覚悟して目を閉じた。刹那。
「……あ、あれ?」
ピタリと止まった身体。
痛みは……ない。というか、そもそも倒れ落ちた感覚すら……。
奇妙な異変に、そろりと両目を開ける。
と、視界に入ったのは錦糸のような灰色の髪。その隙間から覗く、耳についた小さな石が、きらりとその身を輝かせた。
「っ、あなたは――」
私のお腹を抱き留めていた少年が、顔を上げた。
途端、くしゃりと顔を歪め、
「……ごめんなさい」
「え……?」
小さくこぼされた謝罪にたじろぐと、
「――そのまま捕らえていろ」
「! まさ……っ」
いつの間にかすぐ後ろまで降りてきていた雅弥が、私に棟を向けるようにして、上部から少年に切先を向けた。
獲物を捉えた獣のごとく、ギラリと光を走らせる"薄紫"。
少年が、怯えたように身体を震わせた。
「――ちょ、ちょっと、ストップ!」
「!」
少年を庇うようにして抱きしめると、頭上から不機嫌めいた雅弥の声が降ってくる。
「すべての元凶はそのあやかしだ。この"玩具"をばら撒いたのも、その振動で絵が落ちたのも。念のため言っておくが、ソイツはここに住んでいた"お爺さん"でもないぞ」
「それは、わかってるけど……っ」