灰色の髪と、同じ色の瞳。
 くすんだ白いシャツは華奢な身体をさらに頼りなげにしていて、灰褐色のハーフパンツからは、骨ばった膝小僧が見え隠れしている。
 私を見つめる少年は、くしゃりと今にも泣き出しそうに顔を歪めて、

「……出ていって」

「!」

「……ここは、僕が守らないと」

 幼く澄んだ声に気を取られていた刹那、

「……出たな」

「! 雅弥っ」

 風呂場から引き揚げてきた雅弥が、廊下に踏み出て、鞘から"薄紫"を引き抜いた。
 少年の頬が強張る。それでも彼は怯えの浮かんだ瞳に決意をみなぎらせ、

「この家から、出て行って……っ」

「っ! 逃がすか……っ!」

 階段を駆けあがっていく少年を、雅弥が追いかける。
 私もその背を追うようにして駆け出し、

「雅弥っ! なんかあの子、ワケありっぽくない!?」

 階段下から叫ぶも、駆けのぼっていく背は振り返りもせず、

「だとしても、俺は"祓い屋"だ。俺は俺の仕事をする……っ! アンタはそこにいろ!」

(――ダメ)

 このまま雅弥を先に行かせたら、あの子はきっと、そのまま斬られてしまう。

(――それじゃダメ!)

 直感に、私も階段の手すりをつかんだ。

「私もそっち行く!」

 叫びながら駆け上がる。
 先に上り切った雅弥が驚いたようにして振り返り「アンタはまた……っ」とちょっと怒ったような顔をした。

「だってあの子、絶対になにか理由が――」

 その時だった。
 バンッ! と(とどろ)いた、階上の扉が開いたような音。
 同時に顔を跳ね向けた雅弥が、

「止まれっ!」

 焦った声に足を止める。
 刹那、嵐の雨音に似た打撃音が響き渡り、階上からバラバラとガラス状の粒子が転げ落ちてきた。

「え、え、なに!?」

 腰を折り、代わる代わる私の足を叩くそれを手にとると、

「……ビー玉?」

 ううん、それだけじゃない。
 よく見ると、透明なおはじきも混じっている。

(そういえば、お祖母ちゃんの家にも、綺麗なガラス製のおはじきがあったなあ)

 宝石のようなそれをジャムの瓶に詰めて、太陽の光に透かす。
 そうすると、光が色を躍らせて、美しいおとぎの国に迷いこんだような気分に――。

「――上だ!」

「え?」

 声に見上げた、視線の先。階段横の壁にかかっていた額縁入りの油絵がバランスを崩し、ガタリと傾いた。
 勢いに、絵の上部が壁から離れる。

(あ、やばいコレ)