妙に波立つ胸中の理由を知ろうと、私は胸に手をあてた。
 ほどなくして、気づく。
 悔しいんだ、私は。雅弥に"守る"と言われて。

 確かに私は"見える"ってだけで、祓うどころか、扉を開ける(すべ)すらない。
 ワガママ言って家に上がらせてもらえただけの、ただの"か弱い"人間。
 ――守られるべき存在。
 それが、悔しい。

「……なら、私は」

 呟きに、雅弥の怪訝そうな目が向く。
 まっすぐに視線を捉えた私は、決心に両手を握りしめて、

「私は、雅弥を守る」

「…………は?」

「私、運動神経もけっこういいし、今だってそこそこ鍛えてて、腹筋に線入ってるんだから。あ、直接見てもらったほうが早い……」

「まて。やめろ服を捲りあげるな……っ!」

 風のような早さで距離を詰めた雅弥が、シャツの裾を握った私の両手を必死に抑え込む。

「恥じらい……は持ち合わせていなかったとしても、羞恥心くらいはあるだろう!?」

「べつに、見られて恥ずかしい腹筋じゃないもの。実際に根拠を見せたほうが、説得力も高まるでしょ? そんなに焦っちゃって……あ、もしかして、雅弥って筋肉に興奮するタイプの人だった?」

「違う! そういうことでは――ともかく服からその手を放せ……っ」

 あまりの形相にしぶしぶ裾を開放すると、雅弥はぐったりと頭を垂れて、

「本当……なんなんだアンタは……」

 ちょっと情けない声で呟いた。

「ねえ、話の続きしてもいい?」

「……そうだな。アンタの奇行が読めた試しはないが、今後のためにもアンタの思考パターンを知っておきたい」

 雅弥が私の手を解放して、手を退く。その指先が完全に地を指す前に、今度は私が両手で掬い上げた。
 手の内の指先が微かに強張る。私は構わず雅弥を見上げ、「だからね」と続けた。

「本当にヤバそうになったら、悪いけど、力づくでも雅弥をおぶって逃げるから。"祓い屋"としては屈辱でしょうけど、私だって、雅弥にはちゃんと雅弥として『忘れ傘』に帰ってほしい。二人で皆のところに戻るためにも――私が、雅弥を守る」

 私を見下ろす双眸が、これでもかと見開かれる。
 驚愕。それもそうよね。だって私は雅弥からすれば、ただ"見えるだけ"の人間なんだもの。

「馬鹿を言うな」か、「寝言は寝て言え」か。
 呆れられるのは覚悟の上。けれど、「ふざけるな」って。
 一番に向けられるのが嫌悪だったら……ちょっと、悲しい。