テレビ台に飾られたあみぐるみの熊と猫は、毛羽立っててもホコリはほとんどなく。
 共に飾られたダルマの置物と一緒に、随分と長いこと大切にされてきたのだと、一目瞭然。
 ふと。視線を台所に投げると、冷蔵庫には着飾った和服姿の幼い女の子の写真をはじめ、マグネットに加工された小さな家族写真が貼られている。

「……ここ、取り壊し前にちゃんと娘さんに見てもらわないとだね」

 見れば見るほど、故人の生と、それまでの歴史が息づいている部屋だ。
 きっと、娘さんも持ち帰りたいと。
 たとえそれが無理でも、写真にだけでも収めたいって思う品があるはず。

 雅弥は同意も否定もせず、「俺は、俺の仕事をするだけだ」と、隣に繋がる和室へと場所を移した。
 私は窓へと近づいて、勝手に揺れたというカーテンを手に取った。身体を半分差し入れて、その裏や、隙間も確認してみる。
 うん、異常なし。仕掛けもないし、何もいない。

「ねえ、雅弥。さっき気配が濃いって言ってたけど、どの部屋にいるかってわからないの?」

「さっきから探ってみてはいるが、今度は随分と息を潜めているようだ。階上もそうだったが、この部屋もすでに"気配"が染みついている。こちらが見つけるのが先か、向こうから仕掛けてくるのが先かだ」

「そう、それ! 新垣さんの話ではいろいろ怪現象が起きてたみたいなのに、まだ何も起きてないなんて変じゃない?」

「術を破って入ったからな。警戒しているんだろう。相手は"馬鹿"ではないということだ」

 押し入れの襖を躊躇なく開いた雅弥が、首を差し入れて念入りに調べ始める。

(こっちが見つけるのが先か、向こうが仕掛けてくるか、かあ……)

「……雅弥。私は廊下奥の洗面台のほう、探してきてもいい?」

 雅弥はこちらに顔を向けもせず、

「ダメだ。見える範囲にいろ」

「……効率悪くない?」

「効率を優先させるのなら、外で待たせた。家に上がらせてしまった以上、俺には"責任"がある。アンタを五体満足のまま、帰さないといけない」

「…………」

 それってつまり、場合によっては腕の一本くらいはなくなるってことで……。
 連想ゲームさながら、自分の腕が真っ黒な"何か"に食いちぎられる光景を想像しかけた刹那。
 すいと向けられた漆黒の双眸が、決意を瞬かせて私を捉えた。

「アンタのことは、俺が守る」

「!」

 言い切って、雅弥は再び押し入れの捜索をはじめた。
 微塵の疑いもない、確信的な自信。
 言葉にせずとも、"だから安心しろ"と、雅弥の意図は伝わってくるのだけど……。

(……なんだろう。この、違和感)