ぎい、と。重く錆びついた音を響かせ、開かれた扉。
 躊躇なくまっすぐに玄関へと歩を進める背を追って、敷地内へ踏み入れた。
 雅弥が引き戸の前で立ち止まる。すると、左手だけを私に向け開いて、

「鍵、よこせ」

「なっ」

 なによ、その言い方。そういいかけて、私は咄嗟に口を噤んだ。
 先ほどトンネル内で、雅弥に怒られたばかりだった。

「……はい」

 新垣さんから受け取っていた鍵をその掌に乗せる。
 と、引き戸を見上げていた雅弥は私に顔を向けて、怪訝そうに眉をしかめた。

(なによ、素直に渡したのに!)

 背後で歯噛みする私なんて気にも留めずに、雅弥は何を言うでもなく再び引き戸に顔を向けて、鍵を扉に挿しこんだ。
 がちゃり。くるりと回った鍵穴が、開錠を示す。

(とうとう、中に――)

 緊張に喉が鳴る。
 刹那、雅弥が振り返った。

「……そこで待っていてもいいが、どうする」

「へ?」

「カグラからの指示は、"同行"だけだろう? "調査"をしてこいとは言われていないはずだ」

「――あ」

 本当だ。つまり私の"対価"は、この場について来ただけでクリア出来ている。
 雅弥としては、私をここで待たせたいのだろう。わかってる。
 だって私はただ"見える"ってだけで、雅弥みたいに"特別"な力はない。
 私はただの、"足手まとい"。
 ――わかっては、いるんだけども。

「……お願い、雅弥」

 両の掌を握りしめて、私は雅弥へ一歩を進めた。

「何か起きたら、私のことは見捨ててくれていいから。一緒に行かせてくれない?」

「……それは、あやかしへの好奇心か? それとも、俺の"異質さ"を、見世物のように楽しんでいるだけか?」

 これはまた、随分とトゲのある。
 けれど強い言葉とは裏腹に、その眼はどこか私の真意を測りかねているように、戸惑いが見え隠れしている。

("異質さ"を見世物のように楽しんでいる、ね)

 きっと、そうされた過去があるのだろう。
 ううん、それが"普通"だって。飛びぬけた"個性"は良くも悪くも人に執着を生むものだと、私は身をもって知っている。
 だからこそ、心の底から嫌悪をにじませて、否定した。

「まさか」

「……なら、なぜ」

 私は顎先を上げ、眼前に佇む家を見上げる。

「私、ほとんどお祖母ちゃんの家で育ったんだけど、その家、お祖母ちゃんが死んじゃった後に、壊したの。屋根瓦が落ちちゃうくらい古くって、そのままにしておくと、危なかったから」