「んじゃ、コレ鍵な」

「へ?」

 掴み上げられた掌に、ぽんと鍵が一本落とされた。
 あまりの突然さに間抜けな顔で見上げると、

「俺は駅前のラーメン屋にいっから、終わったら連絡くれ」

「え? ちょ、新垣さん無しで勝手に上がっちゃっていいんですか!?」

「ヘーキヘーキ。娘さんにも許可はとってっし、何が見えようと"信じない"俺がいた所で、出来ることもねえし。雅弥も俺がいると嫌がるかんな。心配ねーよ」

 そうなの? と雅弥を見遣ると、

「一人の方が、余計な手間がかからないからな」

(あ、これあまり追及しちゃダメなやつだ)

 カグラちゃんが私に同行の"お願い"を告げたとき、雅弥は全力で拒否していた。
 それでも"対価"だからとカグラちゃんに押し切られ、しぶしぶ雅弥が折れた形になっている。やっぱり神様だからか、カグラちゃんのほうが力関係が上らしい。

 私を見下ろす含みを帯びた双眸からは、本心では、今からでも私を帰したいのだとひしひしと伝わってくる。
 察した私は無理やり視線を切るようにして、「そ、それはそうと」と新垣さんを見上げた。

「調査するのは、そのおウチなんですよね? どうして家の前じゃなくて、このトンネル前で待ち合わせだったんですか?」

「あー、それな」

 新垣さんは言い難そうに頭をかいて、

「この辺に住んでる人間って少ねーかんな。何かあると、あっという間に話が広がっちまうんだよ。"噂話"には尾ひれが付き物だかんな。おまけにこのトンネル、見た目からして"いかにも"って感じだろ?」

「……と、いうと?」

「亡くなった爺さんの霊が、あの家に近づこうとするヤツにこのトンネルで悪さしてる……ってことになっちまってるみたいなんだよ。タクシーでも、なんか言われただろ」

 ああ、それで。
 雅弥と共に乗り込んだタクシーで、このトンネルまでとお願いした瞬間、運転手さんは顔を曇らせて「すみませんが、その近くのバス停まででいいですかね」と交渉してきた。
 だからそこから歩いてきたのだけど……そういう事情だったとは。

「でも、トンネルでは出ないんですよね?」

「今んとこ、"ちゃんとした"報告は上がってきてねえな。つっても、誰が確かめたワケでもねーし、"絶対"とは言い切れない。この先は用心して行ってくれ。そんじゃ、また後で」

 片手をあげた新垣さんが、あっさり背を向けて歩いて行ってしまう。