「それじゃあ、種明かしも済んだところで」

 喜々として手を合わせたカグラちゃんの声に、私は意識を"今"に向けた。

「ボクの勝手とはいえ、ボクが色々と手助けをしたことで、彩愛ちゃんが助かったってことになるでしょ?」

「うん、そうね。カグラちゃんも、本当にありがとう」

「ううん。彩愛ちゃんが無事で良かったよ。でね、ボクって一応"神様"だからさ、手助けした分はちゃんと"対価"を貰わなといけなくて」

 ……そういうこと。
 だから雅弥は、"俺には"必要ないって言ったんだ。私が"払う"べき相手は、カグラちゃんだから。
 全てを理解して覚悟を決めた私は、正座して、カグラちゃんに向き合う。
 "神様"の望む"対価"が、私にも払えるモノだといいのだけど。

「どうぞ、どーんと言ってちょうだい」

「わーい、ありがとー! 彩愛ちゃんは話が早くて助かるよー!」

 カグラちゃんが正面からぎゅうぎゅうと抱き着いてくるも、すっかり慣れてしまった私は、とくべつ抵抗することもなく、

「対価とか、そーゆーの。ちゃんと理解しているってわけじゃないけど、カグラちゃんが必要だって言うのなら、なんだって渡すわよ」

「……まがりなりにも"神"相手に、滅多なことは言わない方がいいぞ」

「そうなの?」

「ふふ、そうだね。神サマってのはけっこう身勝手で、欲もふかーい存在だからね。ボクみたいにさ」

 カグラちゃんみたいに?
 そう言われると、余計にそこまで警戒する必要があるなんて思えないんだけども……。
 子猫のようにじゃれついていたカグラちゃんが、私から身体を退き、「それじゃあ、彩愛ちゃん。覚悟はいーい?」と小首を傾げた。

 うん、カワイイ。きゅるんきゅるんなどんぐり(まなこ)にノックアウトされつつ、私は「どうぞ」頷く。
 途端、カグラちゃんはにいっと双眸を細めた。
 その顔は、悪だくみを思いついた悪戯っ子のようにも、慈悲深き仏の微笑みのようにも思えて……。
 ――あ、なんか"神様"っぽい。

「あのね、ボクのお願いを叶えてほしいんだ」

「お願い?」

 カグラちゃんの顔から、笑みが消えた。

「雅弥の次の"仕事"に、同行して」