(また似たようなことが起きないとも言い切れないし、反撃のひとつでも出来るくらいにはしておいたほうが……)

 雅弥に助けてもらわずとも、逃げれるようにならないと。
 ……助けといえば。

「そうだ。お葉都ちゃんとの護衛とか、今回助けてもらったのとか、もろもろ含めて私はいくら支払ったらいいの?」

「……払う気、あったのか」

「"仕事"してもらったんだから、当然でしょ。いやまあ、ついうっかりしてて聞くのが遅くなっちゃったのは申し訳ないけど。こういうのってやっぱ、現金オンリーよね? 金額によっては引き出しに行かないとだから、早めに教えてほしいんだけど」

 お葉都ちゃんの件はともかく、高倉さんについては"念"を斬ってもらったうえに、事後処理まで頼んでいる。
 こういう業界の相場なんて知らないけど……命を懸けているのだから、数十万円したって不思議じゃない。

 入社時からコツコツ貯めていて良かった。
 内心で過去の自分に拍手を送りつつ、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の面持ちで返答を待る。
 すると、雅弥は程なくして、

「……いや。俺には、必要ない」

「必要ないって……え? 本気?」

「のっぺらぼうの件は、元より"祓い屋"としての仕事をしていただけだ。おまけに何一つ、祓ってもいない。護衛に関しては、アンタを説得しきれない俺の対応策だ。今の所、アンタもアレも律儀に約束を守り、ウチでしか会っていないだろう」

「そりゃ、お葉都ちゃんを斬られたら嫌だし」

「店に集えば注文もしていくし、結果として俺の利になっている。それでいい」

「……高倉さんの件は?」

「さっきも言ったように、俺にも落ち度があった。とはいえ、確かに俺はアンタを救い、"念"を斬った。その対価は、必要だ」

 ん? つまりお金は必要ないけど、"対価"は必要ってこと?
 ……お金ではない、対価。

「……まさか身体で払えだなんて!?」

「違う」

「うん、まあ、そうよね」

 知ってた。雅弥はそーゆータイプじゃない。
 だからこそ、余計に予測がつかない。

「なら、私は何を用意したらいいわけ?」

「……だから、アンタが俺に渡すべき対価は、ない」

 雅弥は複雑そうに瞳を伏せ、

「俺があの場にいたのは、偶然じゃない。カグラがアンタの危機を察知して、俺を送りだしたんだ。つまりアンタを救うよう俺に"依頼"したのは、カグラになる。俺が対価をもうべき相手は、アンタではなくカグラだ」