べそべそと泣き言を連ねながらコーヒーをこくり。そしてまた、チーズケーキを味わう。
 そのルーティンが三度目に差し掛かったところで、「……わかった」と根負けしたような声がした。
 ぱたりと本を閉じた雅弥は、どこか苦々しそうにカップを手にして、

「相槌くらいは打ってやるから、いい加減うじうじ言うのはやめろ。美味しいと思うのなら、美味しそうに食べてやれ。アイツが不憫だ」

 アイツ、という言葉に、「腕によりをかけて作ってきますね!」と張り切った笑顔で厨房に戻っていった、渉さんの姿が浮かぶ。

「……そう、よね。渉さんに失礼なことしちゃった」

 反省。ちゃんと気持ちを切り替えて、ありがたく味わおう。
 私は姿勢を正してもう一度手を合わせてから、「そういえば」と雅弥に目を遣る。

「昨日、どうしてあんな場所にいたの? 散歩……にしては店から遠いし」

「……まさかとは思うが、俺が"偶然"居合わせたとでも?」

「え、違うの? ……まさか、私を待ち伏せしてたとか?」

 まあでも実際、雅弥は私の連絡先を知らないのだから、私に用があったのならそうするしかない。
 わかっているからこそ、ワザとおどけた調子で言ったのだけど、雅弥は怒るかと思いきや悔いるように瞳を伏せ、

「……そのつもりだったが、間に合わなかった」

(……もしかして、これって茶化しちゃ駄目だった感じ?)

 ただならぬ雰囲気に、私は「ええと」と戸惑いながらも、

「でも、雅弥が来てくれたおかげで助かったし。本当、ありがとうね」

「……いや」

 どこか気落ちした双眸が、私の首元を捉える。

「……アンタはその跡を自分のせいだと言ったが、それは違う。俺がもっと早くに着いていれば、未然に防げた。……すまなかった」

「っ」

 え、ちょっと、なになにどうしよう……!
 まさかの謝罪に、私はたいそう慌てた。だってこんな、しおらしい雅弥なんて初めてだし。

「ちがっ、雅弥が謝る必要なんて、ひとつもないってば。昨日も言ったけど、これは全部私が招いた結果で――」

「俺は、知っていた」

「え……?」

「カグラが女の気を(さと)った時点で、遅かれ早かれ、その女は"念"に取り込まれ、アンタを狙ってくると知っていた。だがまだ大丈夫だろうと、たかをくくっていたんだ。多少の"接触"があったとしても、アンタならある程度、自身で防護出来るだろうと」

 雅弥の眉間に、後悔の皺が寄る。