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「うう……やっぱり仕事じゃない場で誰かに説明するのって難しい……」

 初めは高倉さんに黒い靄が見えた、月曜日からの状況だけを説明するつもりだったのだけど。
 三人から飛んでくる質問に答えているうちに、結局、例の仕組まれたお見合いの話まで遡ってしまった。

(そもそもの元凶はアレだもんねえ……)

 やり直せるのならば、サクッと戻って、部長の"同行"依頼から断ってしまいたい。
 でも、あの事件があったから、こうして『忘れ傘』や皆と会えたワケで……。
 おでこを机に預けて突っ伏する私の頭上から、「ボクはよくわかったよー」と宥めるような声が落ちてきた。カグラちゃんだ。

「はい、コーヒー」

 陶器の擦れる音と、鼻腔をくすぐるほろ苦い豆の香り。
 誘われるようにして顔を横に向けると、今度は背の方から、

「ええ、本当に。お陰様で、報復すべき相手も数人いるとわかりましたし」

「ちょ、冗談よねお葉都ちゃん?」

 剣呑な台詞に勢いよく顔を上げると、お盆を手に乗せ座敷に上がってきたお葉都ちゃんが、綺麗な仕草で首肯する。

「ええ、冗談にございます」

 ……なんだろう。
 声の調子からして笑みを浮かべているだろうに、どうにも冗談に聞こえないというか。

「さあさあ、彩愛様。たくさんお話されて、お疲れになられたでしょう。こちらもどうぞ」

 丁寧な仕草で置かれた小皿を目にするなり、それまでの不安はどこへやら。
 私は「わあ」と目を輝かせ、

「すっごく美味しそう! つぎ来た時は絶対注文しようって決めてたのよねー。このチーズケーキ!」

 若草色の小皿に映える、カットされた真っ白なチーズケーキ。
 上部にはブルーベリーがころころと乗っていて、同色の、艶のあるソースがとろりと滴り食欲をそそる。

「って、あれ? コーヒーもだけど、私、もう注文してたっけ?」

 疑問を受けたカグラちゃんが、「ううん」と机に腕を乗せてにこりと笑んだ。

「これは彩愛ちゃんの怪我が早く治りますようにって、ボクたちからだよ」

「え……いいの?」

「もっちろん! 来たばっかりなのに説明も頑張ってもらちゃったし、ゆっくり楽しんでね」

 労わるようにして私を見つめる二人の背に、後光が見えたような気がした。

「カグラちゃん、お葉都ちゃん……。ありがとう、すごくうれしい。渉さんにも、あとでお礼いわなきゃ」

「きっと喜ぶから、そうしてあげて」