「可能な限りで構いません。どうか、私の知らぬ場にて何が起きたのか、ご説明くださいませ」

「ボクも聞くー!」

 元気に挙手するカグラちゃんに、私は「ん?」と疑問を浮かべ、

「カグラちゃんは今回のこと、雅弥から聞いてるんじゃあ?」

「ボクは"雅弥の知ってる部分"しか知らないもの。彩愛ちゃんがどうやって襲われたのかとか、そもそもなんで恨まれてたのかとか、細かいところはさっぱりだよ」

 あ、なるほど確かに。
 新垣さんに任せたあの後、雅弥は私の家まで送ってくれたけども、ちゃんと病院に行くよう念押ししただけで、高倉さんについては何も尋ねてこなかった。
 今回の事件の始まりから最後まで、すべてを知っているのは、私だけ。
 私は「わかった」と肩を竦め、

「ちゃんと説明するから、まずは席について落ち着きましょ。注文だってしたいし」

「そうでございました。ささ、こちらへどうぞ彩愛様」

「んじゃ、ボクはメニュー表とお冷の準備してくるねー!」

 私から了承を引き出したからか、テキパキと動き出した二人。
 そんな働き者な後ろ姿を見遣りながら、私はこっそり苦笑を零す。
 こうして純粋な好意に包まれて、大切にされるのは、嬉しいけれどなんだかくすぐったい。

(……さあて、どう説明しようかなあ)

 誠意には誠意で返さなくちゃ。
 けれども"不本意な仕返し"を防ぐためにも、登場人物の"誰か"が二人の逆鱗に触れないようにしないといけない。

「そういえば、お葉都ちゃんの"顔"の方はどう?」

 それよりも、とずっと気になっていた疑問を口にすると、

「お陰様で、だいぶコツを掴んでまいりました。ですが彩愛様にお披露目するには、もう暫しお時間を頂きたく……」

「待つ待つ! じっくり励んでね、お葉都ちゃん。にしても、まだ稽古中なのに、もうお店の手伝いを始めているの?」

 お葉都ちゃんは少しだけ恥ずかしそうに「ええ」と頷いて、

「上手く化けれるようになった(あかつき)には、すぐにでもお役に立たなければと思いまして。時折こうして、接客についても指南頂いております」

「……お葉都ちゃんって、本当に勤勉だし誠実よね」

 私ならきっと、"化け術"の完成ぎりぎりまで始めない。
 見習わなくちゃと尊敬の眼差しを向けるも、お葉都ちゃんは「いえ」と首を振って、

「これまで、ただひたすらに御恩を受け続けていたのですから。少しでも早く返さなくては、バチが当たります」