「え、私って雅弥を手懐けてたの?」

「手懐けられた覚えはない」

「なんだ、ちげーの? ま、とりまコイツを制御してくれんなら、有難いことに変わりはねーけどよ。こっちだって、毎回毎回誤魔化して処理するの大変なんだかんな」

 後半は雅弥にジト目を向けて。けれども雅弥は、いつも通り平然としている。
 新垣さんは諦めたように息をついた。

「そんで? えーと、彩愛さんだっけか。どうする?」

 お伺いを立てながら傾げられた小首に、私もつかれて首を傾げながら、

「どう、とは?」

「まあさ、これから俺は後処理をするんだけども、今回は"たまたま散歩していたら人が倒れていた"あたりにすっかなって考えてんの。で、とりま救急車呼んで、このおねーさんを運んでもらう。それと、精神鑑定もだな」

「精神鑑定、ですか……」

「そ。実際、"念"関係でおかしくなったヤツってのは、実際にも病んでる場合がほとんどだからよ。たぶんこのおねーさんの"奇行"も、精神面の問題ってことになるだろうな。とはいえ、罪は罪だ」

 それ、と。
 新垣さんは鋭い眼差しで、私の首元を指差した。

「っ!」

 そうだ、首……! 忘れてた……っ!
 咄嗟に首を両手で覆うも、新垣さんは硬い表情で、

「やったの、このおねーさんだろ。どうする? 一緒に救急車待ってもらって、錯乱したおねーさんが突然襲ってきたって方向で話合わせてもらうか、後から"被害者"として、自分で通報するか。どちらにせよ、彩愛さんも早いトコ病院でちゃんと診てもらわねーと……」

「あ、あのっ!」

 思わずボリュームの上がってしまった声。
 慌てて片手を口元にずらした私は、「すみません」と声を潜め、

「私のコレは、無かったことにしてもらえませんか? その、身体も全然平気ですし、これは……私の"罪"なので」

「は? 本気で言ってんのか? 冗談だろ?」

「いえ、本気でお願いしているんです」

「んなっ……そーか分かったぞ。知り合いなんだな? このおねーさんと。そんでなんか弱みを握られてるって線か」

「いえ、ホントに違くて……」

 どうしよう、また一から説明しないといけないのかな。
 どこから話すべきかと頭を捻っていると、「……こいつのことは、いい」と呆れたような声がした。
 雅弥だ。新垣さんは跳ねるように顔を向け、

「いいって、実害出てんのに見なかったことにはできねーし……」

「だから、この"事件"としては"無かった"ことにしろと言っているんだ。こいつは確かに首を絞められた。だが、この女の"事件"とは関係ない。そういう事だ」