「ええと、名前は柊彩愛です。普通の会社員ですけど、雅弥とは最近知り合って……というか、助けて? もらって?」

「おい、なんだその疑問形は」

「だって、お葉都ちゃんの件は誤解だったわけだし」

「あのな……俺がいなきゃアイツだって、自制が効かず実害を出していた可能性も」

「待て待て、いま俺が自己紹介聞いてるトコだから。俺無視してイチャコラすんのやめてくれ」

「してないです!」

 咄嗟の否定に、新垣さんが「だからシー! ガチで通報とかされたらシャレになんねーから!」と再び人差し指を立てる。

「あ、ごめんなさい」

 口元を抑えた私に対し、「自業自得だ」と冷たく言い放つ雅弥。
 すかさず新垣さんが「あんだとー?」と雅弥に顔を寄せにらみつけ……。
 いや、イチャコラしてるのはどっちですか。

「ともかくだな」

 プツンと睨み合いを止めた新垣さんが、私にその目を向けた。

「雅弥の知り合いってなら、渉のことも知ってんのか?」

 その口から飛び出してきた名前に驚きつつ、「あ、はい」と首肯すると、

「なら話が早えわ。俺、渉の幼馴染。身元に不安があったら、渉に聞いてくれ」

「え!? 渉さんの……幼馴染……?」

 意外。だって、あの物腰柔らか紳士然たる渉さんと、このいかにも体育会系ちょっとガラ悪刑事さんが、幼馴染って。

(この二人、小さいころとか何して遊んでたんだろう……)

 中遊び好きと外遊び好きってイメージだけども。渉さんが外遊び好きなのか、新垣さんが中遊びも得意なのか。
 うっかり空想でタイムスリップしかけた私を、「んで?」と尋ねる声が引き戻す。

「こっちの倒れているおねーさんが、今回の元凶か?」

 新垣さんが膝を開いた、所謂"ヤンキー座り"の体制でしゃがみ込む。
 と、高倉さんの横顔を覗き込んで「うげ……これまたひでえ有様だな」と顔を歪めた。
 雅弥は二人を見下ろしたまま、

「ああ。"念"の宿主だ。……今回は、そこまで大事に至らないだろう。引き剥がしてから斬ったからな」

 途端、「へえ?」と新垣さんが驚いたように顔を上げ、

「効率重視のオマエが、珍しいじゃねえか」

「……面倒な奴がいたからな」

「面倒な奴?」

 疑問に宙を見上げる新垣さん。
 数秒すると、「あ」と理解したように私を見て、

「そーゆーことか。雅弥を手懐けるたあ、根性座ってるじゃねえの」