「アンタ、見えているのか」

「え? うん、バリバリ見えるけども……やっぱりこれって、普通は見えない系のやつ?」

「なっ……。蓋が、開いたのか」

「蓋?」

「ものの例えだ。あやかしや霊と接触することによって、見えなかったモノが見えるようになることがある」

「ということは……私、これから普通にあやかしとか霊とか、見えちゃうってこと?」

「……程度にもよるが、可能性としては否定できない」

 わあ、そんなことが。
 私が感嘆の声を上げるよりも早く、雅弥が「その話は後だ」と話題を切った。

「ひとまず、アレを祓うぞ」

 鞘に収められていた刀身を引き出し、抜く。
 私は慌てて、

「まさか高倉さんを斬るだなんて――!?」

「人は斬らない。俺が斬るのは、あの"念"だ。ただ――、っ!」

 雅弥が途中で言葉を飲み込んだのは、左手に持つ鞘で、咄嗟に受け身を取ったからだ。
 風のような速さで飛び込んできた高倉さんの手には、どこからか取り出した鋭利なハサミ。
 防ぐ雅弥の鞘に力一杯突き立て、憐れむように笑む。

「アナタも、偽りの美に惑われているの?」

「……っ、惑われているのは、お前だ!」

 腹部を狙った容赦のない蹴りが、高倉さんの身体を吹き飛ばす。
 思わず「高倉さん!」と声を上げてしまったが、やはり彼女は能面のような笑みのまま、むくりと身体を起こした。

 傷の増えた身体を覆う、黒い靄。
 まるでその靄が、高倉さんを人形のように動かしているような――。

「さっきの続きだが」

「!」

 雅弥の声に、私は思考を引き戻す。

「アンタも感づいているだろうが、あの女はすでに随分と根深く"取り込まれて"いる。このまま"念"を斬れば、おそらく、本体も無事では済まないだろう」

「それって、高倉さんも死んじゃうってこと?」

「死にはしない。だが……地中深く根を張った大樹を、引き抜くようなものだ。精神も肉体も、相当の揺さぶりを受ける。早期に目覚めれば運がいいが、それでも心は回復出来ないままという可能性も……」

「だ、だめよ!」

 私は咄嗟に首を振った。

「そんな……だって、高倉さんだって被害者なのよ? ただちょっと私にはドコがいいのかさっぱりわからない面倒な相手を好きになっちゃって、どうしてなのか一ミリも理解できないけれど、なんとか振り向いてほしいって思っちゃってて、おまけに迷惑極まりないけども、その恋心が若干間違った方向に爆発しちゃっただけなのに!」

「……呪文か?」

「違う! つまりその……こんなことで一生を棒を振るなんて、わりにあわないって言いたいの!」