だって高倉さんは私の知る限り、常に一定の拘りを持って、自身の外見を整えている。
 なのにこんな姿で出社してくるなんて……あり得ない。

(……どうしたんですか、って私が聞くわけにはいかないし)

 お葉都ちゃんの件ですっかり忘れていたけれど、そういえば金曜日の"襲撃"で、ひと悶着したのだった。
 あれから一度も言葉を交わしていない。

 チームが違うからそもそも機会もないってのもあるけど、もしかしたら、高倉さんは意図的に避けていたのかもしれない。
 私に関わられることすら嫌悪していたのだとしたら、火に油を注ぐことになる。

(うーん、どうしたものか……。このまま黙っているにも、なんか、落ち着かないし……)

 ひっそりと悩んでいた刹那、再びフロアの扉が開いた。
 部長だ。数歩進めた途端、「んん!? 高倉くん、それは一体どうしたんだい!?」と肩を跳ね上げた。

(ナイス部長……!)

 心の中で親指を立てながら、耳をそばだててモニター越しにこっそりと様子を伺う。
 あんぐりと口を開けて、目を白黒させる部長。
 けれども高倉さんは、「やだ部長、急に大声出してどうしたんです?」とおかしそうに噴き出した。

「どうかしたって、キミ、体調でも悪いのかい?」

「いいえ? 特に不調な所はありませんけど」

「なら、どうしたってそんな……」

「変な部長。さっきから何を心配されているんです?」

「なにって……その、キミの顔が」

 おそるおそる告げた部長に、高倉さんは「かお」と右手を頬に添え、

「ええ、そう。部長も驚きましたよね。私、自分でも驚いてしまうくらい、美しいんです。なのに全然気づいてあげられなくて……。なのでこれからは、もっと活かしてあげようと決めたんです。頑張りすぎずに、自然体の私を愛してあげれば、きっと何もかも上手くいくはずだから」

 初めて抱いた純真な夢を語るかのような、うっとりとした面持ち。
 部長は強張った頬をひくつかせて、「そ、そうか。是非とも頑張ってくれ」と逃げるようにして、窓側の部長席に向かって行ってしまった。

(いやいや、明らかにおかしいんだからもっと突っ込んでよっ!)

 そう思う反面、あの様子ではこれ以上ふれてはいけないという判断も、理解できてしまう。
 ともかく今は部長より、高倉さんだ。

(頑張りすぎない自然体? それにしたって、そのメイクはないでしょうよ……!)