お葉都ちゃんがふと指を止めて、とかみしめるように息を付く。

「お恥ずかしい話ですが、"顔"を得たいと願ったその時から、可能な限り鏡を避けておりました。それまでどんなに心が弾んでいても、自分には"顔"がないのだという事実と対面するたび、どうしても悲しみが勝ってしまっていたのです」

 ですが、と。
 お葉都ちゃんは自身の頬にそっと触れて、

「彩愛様に顔創りを手伝って頂けるとなってからは、この(おもて)にどんな"顔"が出来るのかと、その日を待ち遠しく思いながら鏡と向き合えるようになりました。今もこうして様々なお顔を見るたび、心悲しくなるどころか、喜びに満ち溢れていて……。本当に、彩愛様と雅弥様には、どう感謝をお伝えしたら良いか……」

「もう、お葉都ちゃんったら。本当に私達のことは気にしなくていいのよ。お葉都ちゃんがそうして嬉しそうにしてくれているだけで、充分ご褒美なんだから」

 ね、と雅弥に同意を求める。
 すると、雅弥は嫌そうに眉を顰めつつも、諦めたように嘆息して、

「俺は、"監視"以上の干渉はしないからな」

「……ありがとうございます。彩愛様、雅弥様」

 頭を下げるお葉都ちゃんを「ほら! それよりも!」と制して、甘く香るほうじ茶で喉を潤した私は、別の雑誌を手にした。

「まだまだ沢山あるから、じっくり選んで最高の"顔"を見つけましょ! それこそ鏡を見た時、サイッコーにテンションが上がるようなやつ!」

「……はい!」

 頷いたお葉都ちゃんが、再び雑誌をめくり始める。迷惑にならないのなら、このままプレゼントしてあげたいけれど……。

(……そういえば)

 ふと抱いた疑問に、私はそろりと視線を前方に向けた。
 雅弥は相変わらずこちらに興味なし。無言で本を読み、空気に徹している。

「……カグラちゃんのこと、文句言わないんだ?」

 私が呟くと、雅弥は本から視線を上げることなく、

「アイツがやるというのなら、俺に止める権利はない。互いの決定は尊重するという、"約束"だからな」

 約束。なんだかまた、引っかかる言葉が出てきた。
 けれど、ただの"監視対象"でしかない私には、それこそ二人の過去にまで踏み込める権利はない。

(……私は私の出来ることに集中しよう)

 そう思考を切り替えて、美味しいあんみつとほうじ茶を楽しみながら、お葉都ちゃんと共に"顔"探しに勤しんだ。