「対価……。それって、かなり高いの?」

「ううん。お金は必要ないよ。そうだねえ……」

 うーんと腕を組んで、悩みだしたカグラちゃん。
 するとほんの数秒で、「うん、そうだ!」と手を打って、

「上手くヒトに化けれるようになったら、ウチの店を手伝ってほしいな。そろそろ人手が欲しかったんだよねえ」

 どう? とカグラちゃんが指先に人差し指を添え、小首を傾げる。
 お葉都ちゃんは戸惑ったような素振りで、

「そのような条件で、本当によろしいのでしょうか。私としましては、現世のことも学んでみたいと思っておりましたので、有難い限りでございますが……」

「よし、じゃあ決まりだね! お葉都ちゃんの"化け術"は、どーんとボクに任せて」

 胸をたたくカグラちゃんは、なんとも頼もしい。
 私は安堵交じりに「お願いね、カグラちゃん」と頭を下げてから、お葉都ちゃんに笑みを向けた。

「いいお師匠様も見つかったことだし、あとは"顔"を決めるだけね」

「はい。本当に、なんとお礼を申し上げたらよいか……。不束者ですが、せいいっぱい精進いたしますので、何卒よろしくお願いいたします」

 正座をしたお葉都ちゃんが、指先を畳につき頭を下げる。
 カグラちゃんはご満悦顔で、

「うん。頑張ろうね、お葉都ちゃん。弟子を持つのって初めてだけど、なんだかワクワクするー!」

 それからカグラちゃんは、お葉都ちゃんの緑茶とおはぎの注文を受けて、渉さんがいるであろう厨房に戻っていった。

「さて、と……」

 お葉都ちゃんの師匠問題はカグラちゃんが解決してくれたことだし、私は私の役目を果たさなきゃ。
 私はさっそくと、持ってきた鞄から数冊の女性ファッション誌を取り出した。
 それを順番に、不思議そうにしているお葉都ちゃんと私の間の畳に、並べ置いていく。

「これなら色んな顔が乗っているし、ひとまずこの中から好みの路線を探してみましょ」

 何よりも、まずはお葉都ちゃんの好みを知らなくては。
 自分の好きな顔じゃないと、テンション上がらないしね!

「このような便利な書物があったのですね」

 感動した様子で一冊を手に取り、ページをめくっていくお葉都ちゃん。
 その姿を微笑ましく思いながら、私も「どんな雰囲気が好き?」と手元を覗き込むと、

「……本当に、夢のようです」