「お先にごめんね。いただきます」

 カグラちゃんと、メニュー表を受け取ったお葉都ちゃんが、微笑んだようにして頷いてくれる。
 私は少し冷めたおしぼりで手を拭いてから、片口を手にして、黒蜜をあんみつにたっぷりと回しかけた。

 とろりと流れていく魅惑的な曲線。あんみつなんて、最後に食べたのいつだろう。
 私は心躍るまま、黒蜜に覆われた白玉を餡子と共に木さじですくい、はくりと食んだ。
 もちりとした食感を噛みしめるたび、黒蜜の濃厚な甘みと餡子の優しい味わいが混ざり、口内に広がる。

「んんー! おいしい!」

 思わず頬に手をやった私の背後で、「お口に合ったようで、何よりです」と安堵の声。
 渉さんだ。

「大事なパートナー様をがっかりさせたとなっては、雅弥様の顔に泥を塗ったも同然ですから。その際はお二人にどうお詫びすべきか、ひやひやしました」

「そんな大げさな……」

 たかがビジネスパートナー相手に慎重すぎない?
 というか、雅弥は私ががっかりしようが喜ぼうが、興味ないですよ?

 浮かんだどちらを告げるべきか。迷いながらも、私はもう一口を含む。
 歯切れのいい寒天に、シロップで甘味を増したミカンと餡子。
 そこにえんどう豆の塩分が加わって、ひと噛みごとに変わる味わいに、舌が踊ってしまう。

「このあんみつは、上野にある老舗のあんみつ屋さんから特別に餡子と黒蜜を卸して頂いているんです。なので不味いはずはないのですが、その他は当店オリジナルでご用意しているので、気に入ってくださったのなら嬉しいです」

「すごい、なんだか二重で特した気分……。それにこのあんみつ、フルーツたっぷりなのもすっごく嬉しいです! この黒蜜に溶けた餡子と一緒に食べるフルーツの、絶妙な甘味と酸味が大好きで」

「わ、さすがですね」

 驚いたように手を打った渉さんに、私は「なにがです?」と首を傾げる。

「以前、同じことを雅弥様もおっしゃっていたんです。やはりお二人は、気が合うのですね」

「え」

「おい、渉。余計な事を喋るな」

「あ、雅弥様もお召し上がりになられますか?」

「必要ない。あと、コイツとは気が合わない」

 心底嫌そうに否定する雅弥に、渉さんはきょとんとした顔で「そうなのですか?」と不思議そうにしている。
 なんだか渉さんもある意味、ツワモノなのかもしれない。

(私もちゃんと違うって言っておかないと)