お葉都ちゃんのことだ。気づいた私が「声も?」と尋ねると、渉さんは気落ちしたまま「はい、声も全く……」と首肯した。

「残念ながら俺には、彩愛様がお一人で話されているようにしか見えません……」

(それって、けっこうシュールな光景なんじゃ……)

「失礼いたします」と声がして、お葉都ちゃんが私の隣に膝を折った。
 その腰を落ち着けるまでの流暢な所作や、座り姿の美しさに、思わず見惚れてしまう。

「私ももっと背筋のトレーニングしようかな……ううん、これはお茶とか習ったほうが……」

「はい、彩愛ちゃん。注文のあんみつとほうじ茶だよ!」

 熱いから気を付けてね、とカグラちゃんが置いてくれた土物のティーカップから、香ばしくもどこか甘い湯気がふわりと漂う。

 同じくして、焼き物の質感がどこか落ち着くお椀より一回り大きな器には、みつまめに白玉が二つ。
 カットされたミカンにキウイと、イチゴにバナナ、そして豆の存在がしっかりとしたまあるい餡子が盛られている。

「わー、すごいフルーツが盛りだくさん!」

「気に入ってくれた? そういえば小豆って魔除けの力があるって言うし、今の彩愛ちゃんにはピッタリの甘味だね」

「え? 小豆にそんなパワーが?」

「赤い色がね、邪気を祓ってくれるからって、ボクもお供え物でよくもらってたよ」

「……祓えるといっても、気休め程度だ。アンタの"それ"には、ほとんど意味はない」

 ぼそりと呟いた雅弥に、「もー、イジワル言わないの! ちょっとは効果あるじゃん!」と口を尖らせるカグラちゃん。

(……ちょっと、なんだ)

 どうやら私にまとわりついている"嫉妬の気"は、そうとう根強いらしい。

「はい、こっちは黒蜜だよ。お好みでかけてね」

 お椀の横に置かれた白い片口の中で、たっぷりとした艶やかな黒蜜がてらりと輝く。
 ――やばい。おいしそう。

(ひとまず"嫉妬の気"の件は、後で考えよ)

 早速と(さじ)を差し込みたい衝動をぐっとこらえて、「ええと、お葉都ちゃんはなにを注文する?」と隣の彼女を見遣る。
 と、すかさず「ふふっ」とお葉都ちゃん。

「私のことはお気になさらず、どうぞお召し上がりくださいませ」

「え、でも……」

「せっかくお作り頂きましたのに、白玉も餡子も乾いてしまいます」

「そうだよお。渉も張り切って盛り付けてたし、お葉都ちゃんの注文もすぐに用意してあげるから!」

 ね、と笑む二人に促され、私は「それじゃあ……お言葉に甘えて」と手を合わせた。