一社でも受かれば上出来だった就職氷河期世代。
私は希望業種から三つほどお声がかかり、その中でもっとも福利厚生が充実している企業を選んだ。
理由は簡単。
例えパートナーが出来ようが出来まいが、自分の身は自分で養っていくつもりだったから。
だから社内での人間関係は必要最小限に。
矢面に立たされないよう愛想だけは保ちつつ、全力で面倒事は避けてひたすらに仕事を全うしていたのに……。
(ああー、もう、失敗した。こんなことなら、初めから逃げておけばよかった……!)
「なあ、たのむよ柊くん! ちょっとだけ……ちょっとだけでいいからさ……!」
(……ここだけ切り取って人事に訴えれば、セクハラで移動に出来ないかな)
けれども悲しいかな、あいにくボイスレコーダーなんて代物は手元にない。おまけに仮に人事にかけあった所で、私を守ってもらえるという保証もない。
それならおもいっきり溜息をつくくらい、許されるんじゃない?
そんな衝動をぐっと堪えて、眼下で手を合わせる白髪交じりの男性に向かって、申し訳なさそうに眉尻を下げてみせた。
……突然会議室に呼び出すから、何かと思えば。
「……白居部長。その件につきましては、先日しっかりとお返事させて頂きましたよね? 私には勿体ない方です。他にもっと相応しい女性がいるはずですと」
「ああ、聞いたさ。だがね、ウチの息子はキミしか考えられないと言っているんだ。だからね、もう一度会ってやってくれないか。ほんのちょっとだけでいいんだ。キミも息子を理解してくれれば、きっと気に入るだろうからさ!」
だからですね? こちらは理解したくもないから、お断りしているんですよ。
(なんで、そんな簡単なこともわからないかなあ)
私は先日、部長の息子と"お見合い"をした。というか、まんまと騙されて、否応なしに引き合わされた。
大事な取引先との商談だというから、貴重な休日を潰してまで都合を合わせたのに。
――柔和な雰囲気を作りたいから、スーツではなくワンピースで来てほしい。
事前にそう伝えられていた私は、爽やかなペールブルーのワンピースにオフホワイトのカーディガンを羽織り、髪も緩く巻いてメイクも主張し過ぎないフェミニン系で整えた。
時計からアクセサリーまでシルバー系で統一して、香水は温度の高い胸元に少しだけ隠しつける。
(うん、さすが私。めちゃくちゃ綺麗!)
お洒落は楽しい。だって色々な自分になれるから。
私は希望業種から三つほどお声がかかり、その中でもっとも福利厚生が充実している企業を選んだ。
理由は簡単。
例えパートナーが出来ようが出来まいが、自分の身は自分で養っていくつもりだったから。
だから社内での人間関係は必要最小限に。
矢面に立たされないよう愛想だけは保ちつつ、全力で面倒事は避けてひたすらに仕事を全うしていたのに……。
(ああー、もう、失敗した。こんなことなら、初めから逃げておけばよかった……!)
「なあ、たのむよ柊くん! ちょっとだけ……ちょっとだけでいいからさ……!」
(……ここだけ切り取って人事に訴えれば、セクハラで移動に出来ないかな)
けれども悲しいかな、あいにくボイスレコーダーなんて代物は手元にない。おまけに仮に人事にかけあった所で、私を守ってもらえるという保証もない。
それならおもいっきり溜息をつくくらい、許されるんじゃない?
そんな衝動をぐっと堪えて、眼下で手を合わせる白髪交じりの男性に向かって、申し訳なさそうに眉尻を下げてみせた。
……突然会議室に呼び出すから、何かと思えば。
「……白居部長。その件につきましては、先日しっかりとお返事させて頂きましたよね? 私には勿体ない方です。他にもっと相応しい女性がいるはずですと」
「ああ、聞いたさ。だがね、ウチの息子はキミしか考えられないと言っているんだ。だからね、もう一度会ってやってくれないか。ほんのちょっとだけでいいんだ。キミも息子を理解してくれれば、きっと気に入るだろうからさ!」
だからですね? こちらは理解したくもないから、お断りしているんですよ。
(なんで、そんな簡単なこともわからないかなあ)
私は先日、部長の息子と"お見合い"をした。というか、まんまと騙されて、否応なしに引き合わされた。
大事な取引先との商談だというから、貴重な休日を潰してまで都合を合わせたのに。
――柔和な雰囲気を作りたいから、スーツではなくワンピースで来てほしい。
事前にそう伝えられていた私は、爽やかなペールブルーのワンピースにオフホワイトのカーディガンを羽織り、髪も緩く巻いてメイクも主張し過ぎないフェミニン系で整えた。
時計からアクセサリーまでシルバー系で統一して、香水は温度の高い胸元に少しだけ隠しつける。
(うん、さすが私。めちゃくちゃ綺麗!)
お洒落は楽しい。だって色々な自分になれるから。