(もしかして、副業でバイトしてるとか?)

 確かに、今の世の中『祓い屋』で食べていくには難しそうだし、それこそ"昼は喫茶店員、夜は祓い屋"なのかもしれない。
 よくよく思い出してみると、雅弥は一度も『忘れ傘』が自分の家だとも、祓い屋の店だとも言っていないし――。
 なるほど、と納得しかけた刹那、

「こんには!」

「ひぇ……!?」

 目の前の扉がガラリと開いて、くりくりっとした丸い目の可愛らしい少女が、愛想のいい笑みでひょこりと顔を覗かせた。

「よろしければお席、空いてますよ?」

 たぶん、十代後半くらい。
 どこで施術したのか教えてほしいくらい綺麗に染まった艶やかな銀髪を頭後ろで一つに結い上げていて、頭のてっぺんには白いフリルのヘッドドレスが乗っている。

 見れば同じく真っ白なブラウスに、黒いワンピース。
 腰には丸みを帯びたカフェエプロンをつけてて、こちらも端には柔らかなフリルがたっぷりと。

(え、まってこれはまさか)

「……メイドカフェ、なんですか?」

 雅弥、女装趣味だったんだ……とメイド姿の雅弥を想像しながら尋ねると、少女は「違いますよー!」と手を振って、

「この格好はボクの趣味です!」

(……ボクっ子の美少女)

 メイド雅弥の姿を消し消し。
 朗らかに笑む彼女の可愛らしい笑顔にきゅんとしていると、少女は「あ、もしかして」と思い当たった風に手を打って、

「お姉さん、雅弥が待ってた人でしょ」

「え!? や、やっぱり、ここなんですか……」

「うん、そうそうウチで合ってるよー! さ、入って入ってー!」

 左腕を彼女に引かれつつ、私は「お邪魔します」と興味津々で謎めいた店内に踏み入れる。

(……やっぱり、中もすっごくいい雰囲気)

 年季を感じさせる優しい木のぬくもりも好きだけれど、なんといっても壁を染める深い朱色が上品で華やか。
 飾られた焼き物の花瓶が、とてもよく馴染んでいる。
 店内は当然、そこまで広くはないけれど、それがまた落ち着きを感じさせる要因の一つなんだと思う。

 路地に面した右手前には四名掛けのテーブル席がふたつ。
 左手側には奥に向かって二名掛けの席が三つ並んでいて、右奥には障子風の衝立で目隠しがされた、座敷の席がおそらく一つ。
 たまたまなのか、いつもこうなのか。お客さんの姿はない。

「雅弥はそこだよ! どうぞー、上がって上がって!」

「あ、はい……」

 少女に促され、お座敷の上り口から衝立内を覗く。
 すると、そこで寛ぐようにして本を読んでいる、着物姿の男が目に入った。

「あ」と零した私の声に顔をあげると、嫌そうに眉根を寄せて、はあと息をつく。