「今日はもう遅いから帰れ」
あの後、雅弥に半ば強引に帰宅命令を出された私は、しぶしぶ了承して素直に家に帰った。
というかあれは、雅弥のほうが帰りたくてたまらなかったのだと思う。
何を斬ったわけでもないのに、随分と疲れた顔をしていた。
「ええと……この近くなんだけど」
スマホで開いた地図を片手に、私は周囲を見渡す。
今日は土曜日。私はひとり、観光客で賑わう浅草の地に降り立っていた。
「話がしたいのなら、明日、浅草の『忘れ傘』にこい」
どうやらその『忘れ傘』とやらが、雅弥の店のよう。そこにいけば、隠世からお葉都ちゃんを呼んでくれると言っていた。
仕組みはよくわからないけど、祓い屋って便利すぎる。
沿道に寄せて並ぶ人力車の傍らには、笑顔の眩しい肌の焼けた俥夫。
年齢も国籍も様々な人がごった返している雷門の赤提灯下では、各々が必死に人垣を縫って、その姿を写真に収めている。
(浅草かあ……最後に来たのっていつだったっけ)
確か学生時代に来たのが、最後だった気がする。
参拝後に買った、ふわっふわでサクサクのメロンパン、久しぶりに食べたいな……なんて過去の記憶に浸りながら通り過ぎ、暫く進んで大通りを渡った。次の路地で右折して、更に左。
もはや"ぎゅうぎゅう詰め"を通り越した仲見世商店街からほんの数メートルしか離れていないというのに、こちらの路地は閑散としていて、ほとんど人の姿がない。
地図と照らし合わせながら注意深く歩を進めていく。
と、角から三軒目で、私は足を止めた。
「……やっぱり、ここなんだ」
事前にチェックしていた外観と同じ光景に、私は確信を深めつつやっぱり戸惑う。
だって、雅弥は『祓い屋』だと言っていた。おまけに店の場所は浅草。
だからこう、こじんまりとした古びた建物に、怪しげな『怪異、承ります』の張り紙なんかを期待していたのだけど……。
目の前に建つのは、随分昔から在るであろう立派な古民家の一階を改築した、綺麗ながらも風情のあるいい感じの喫茶店。
栗皮色の木枠に囲まれた大きなガラス扉の出入り口には、薄い紫地の布に白字で『忘れ傘』と書かれた暖簾が掲げられている。
(……実は、店構えは怪しまれないためのフェイクで、中に入ったら祓い屋ちっくな相談所になってるとか?)
けれども軒先にはご丁寧にスタンド黒板が置かれているし、おまけに白いチョークで『当店おススメ! "あんみつ"で一休み』とイラスト付きで描かれている。
目くらましのフェイクにしては、悪手すぎる。
となると、やっぱりここはカフェだか喫茶店だかに間違いない。
あの後、雅弥に半ば強引に帰宅命令を出された私は、しぶしぶ了承して素直に家に帰った。
というかあれは、雅弥のほうが帰りたくてたまらなかったのだと思う。
何を斬ったわけでもないのに、随分と疲れた顔をしていた。
「ええと……この近くなんだけど」
スマホで開いた地図を片手に、私は周囲を見渡す。
今日は土曜日。私はひとり、観光客で賑わう浅草の地に降り立っていた。
「話がしたいのなら、明日、浅草の『忘れ傘』にこい」
どうやらその『忘れ傘』とやらが、雅弥の店のよう。そこにいけば、隠世からお葉都ちゃんを呼んでくれると言っていた。
仕組みはよくわからないけど、祓い屋って便利すぎる。
沿道に寄せて並ぶ人力車の傍らには、笑顔の眩しい肌の焼けた俥夫。
年齢も国籍も様々な人がごった返している雷門の赤提灯下では、各々が必死に人垣を縫って、その姿を写真に収めている。
(浅草かあ……最後に来たのっていつだったっけ)
確か学生時代に来たのが、最後だった気がする。
参拝後に買った、ふわっふわでサクサクのメロンパン、久しぶりに食べたいな……なんて過去の記憶に浸りながら通り過ぎ、暫く進んで大通りを渡った。次の路地で右折して、更に左。
もはや"ぎゅうぎゅう詰め"を通り越した仲見世商店街からほんの数メートルしか離れていないというのに、こちらの路地は閑散としていて、ほとんど人の姿がない。
地図と照らし合わせながら注意深く歩を進めていく。
と、角から三軒目で、私は足を止めた。
「……やっぱり、ここなんだ」
事前にチェックしていた外観と同じ光景に、私は確信を深めつつやっぱり戸惑う。
だって、雅弥は『祓い屋』だと言っていた。おまけに店の場所は浅草。
だからこう、こじんまりとした古びた建物に、怪しげな『怪異、承ります』の張り紙なんかを期待していたのだけど……。
目の前に建つのは、随分昔から在るであろう立派な古民家の一階を改築した、綺麗ながらも風情のあるいい感じの喫茶店。
栗皮色の木枠に囲まれた大きなガラス扉の出入り口には、薄い紫地の布に白字で『忘れ傘』と書かれた暖簾が掲げられている。
(……実は、店構えは怪しまれないためのフェイクで、中に入ったら祓い屋ちっくな相談所になってるとか?)
けれども軒先にはご丁寧にスタンド黒板が置かれているし、おまけに白いチョークで『当店おススメ! "あんみつ"で一休み』とイラスト付きで描かれている。
目くらましのフェイクにしては、悪手すぎる。
となると、やっぱりここはカフェだか喫茶店だかに間違いない。