途端、男は脱力したようにうなだれ、盛大に息をついた。
「何を言い出すかと思えば……。アンタをここで連日追っていたのは、このあやかしだぞ」
「ええ、そう。追っていただけ。危害じゃないでしょ?」
「……その間、アンタに恐怖を与えた」
「変だなあとは思ってたけど、怖くはなかったし」
「……俺が間に合わなければ、アンタはそのあやかしに取り込まれ、顔を奪われていたんだぞ」
「だから、それは誤解だったじゃない。"化け術"のモデルにしたかっただけでしょ?」
は、と。虚を突かれたような声を漏らした男は、それこそ"あやかし"でも見たような顔をして、
「アンタ……あやかしの言葉を信じるのか? そもそもあの長ったらしい身の上話だって、全部嘘かもしれないんだぞ」
「全部本当かもしれないじゃない。確かめてもいないのに嘘って決めつけるなんて、無能の証よ」
「……無能?」
低く繰り返した男が、ぴくりと肩を揺らす。
(よし、食いついた)
祓い屋の仕事内容なんてさっぱりだけど、私のプレゼン力だって伊達じゃないんだから!
「いーい? 仕事ってのはね、信頼性が一番重要なの。決めつけで動いて後から実は嘘でしたなんて言ったら、それまでどんなにいい仕事をしていようと、過去の功績なんて全ておじゃんよ? おまけにあることないこと尾ひれがついて、評判ガタ落ち。首になるだけならまだしも、業界全体からの締め出し、終いには社会的制裁なんてことにもなりかねないんだから。アナタ、祓い屋なんでしょ? そんな特殊すぎる仕事、それこそ悪評一つで、依頼に来る人なんていなくなっちゃうんじゃない? 嘘だというのなら、きちんと調べて証拠だすのが筋ってもんでしょ」
「…………」
難しい顔をして、男が押し黙る。
その眉間にはありありと不服が見て取れるけど、反論してこないってことは、自分の非を認めたってこと。
どうだ、と強気な眼差しでその目を射続けていると、男は「……はあ」と深々と息をついて、振り上げていた腕を静かに下ろした。
金装飾の美しい鞘に、鈍く光る刀身が収められる。次の瞬間、再び刀が閃光を帯びて、万年筆状の小棒に姿を変えた。
「……わかってくれた、ってことでいいんだよね」
おそるおそる彼女から身を退け尋ねると、男は不服そうに双眸を細めて、
「なぜ、そうまでして庇う。あやかしに"恩返し"など期待しても無駄だぞ」
「そんなんじゃないわよ……。ただ、私にはこの彼女が嘘を言っているようには思えなかったんだもの。それだけよ」
「何を言い出すかと思えば……。アンタをここで連日追っていたのは、このあやかしだぞ」
「ええ、そう。追っていただけ。危害じゃないでしょ?」
「……その間、アンタに恐怖を与えた」
「変だなあとは思ってたけど、怖くはなかったし」
「……俺が間に合わなければ、アンタはそのあやかしに取り込まれ、顔を奪われていたんだぞ」
「だから、それは誤解だったじゃない。"化け術"のモデルにしたかっただけでしょ?」
は、と。虚を突かれたような声を漏らした男は、それこそ"あやかし"でも見たような顔をして、
「アンタ……あやかしの言葉を信じるのか? そもそもあの長ったらしい身の上話だって、全部嘘かもしれないんだぞ」
「全部本当かもしれないじゃない。確かめてもいないのに嘘って決めつけるなんて、無能の証よ」
「……無能?」
低く繰り返した男が、ぴくりと肩を揺らす。
(よし、食いついた)
祓い屋の仕事内容なんてさっぱりだけど、私のプレゼン力だって伊達じゃないんだから!
「いーい? 仕事ってのはね、信頼性が一番重要なの。決めつけで動いて後から実は嘘でしたなんて言ったら、それまでどんなにいい仕事をしていようと、過去の功績なんて全ておじゃんよ? おまけにあることないこと尾ひれがついて、評判ガタ落ち。首になるだけならまだしも、業界全体からの締め出し、終いには社会的制裁なんてことにもなりかねないんだから。アナタ、祓い屋なんでしょ? そんな特殊すぎる仕事、それこそ悪評一つで、依頼に来る人なんていなくなっちゃうんじゃない? 嘘だというのなら、きちんと調べて証拠だすのが筋ってもんでしょ」
「…………」
難しい顔をして、男が押し黙る。
その眉間にはありありと不服が見て取れるけど、反論してこないってことは、自分の非を認めたってこと。
どうだ、と強気な眼差しでその目を射続けていると、男は「……はあ」と深々と息をついて、振り上げていた腕を静かに下ろした。
金装飾の美しい鞘に、鈍く光る刀身が収められる。次の瞬間、再び刀が閃光を帯びて、万年筆状の小棒に姿を変えた。
「……わかってくれた、ってことでいいんだよね」
おそるおそる彼女から身を退け尋ねると、男は不服そうに双眸を細めて、
「なぜ、そうまでして庇う。あやかしに"恩返し"など期待しても無駄だぞ」
「そんなんじゃないわよ……。ただ、私にはこの彼女が嘘を言っているようには思えなかったんだもの。それだけよ」