いつもよりもゆっくりな歩調に合わせて、伝わる振動。あたたかい背。支える腕。
 突き放すような冷たい物言いも、突き詰めれば、私を傷つけまいとしてのこと。
 "見えるだけ"の私に、それ以上を話さなかったのも。"見えるだけ"ではなくなった私に、真実を話してくれたのも。

(ほんっと、優しさが分かりにくいというか、不器用なんだから)

 そう笑んでしまえるほど、私はすでに"雅弥"という存在を知ってしまった。

 ――答えなんて、とっくに決まっている。

「……ねえ、雅弥。私を正式にパートナーにしてくれない?」

「…………は?」

 呆けた声と、止まった足。
 肩越しに向けられた双眸は、いつになく真ん丸になっている。

「ほら、郭くんの時はカグラちゃんの"対価"だったでしょ? そうじゃなくて、今後も一緒に祓い屋のお仕事があった時に同行する、雅弥の正式なパートナー」

「……まさかとは思うが、目を開けて寝ているのか? それとも、ここが夢の中だと勘違いしているのか?」

「ちゃんと起きているし、ここは現実でしょ? 本気でお願いしてるんだけど」

 雅弥はまだ信じられないという顔をしていたけれど、はっと思い当たったようにして、

「……そんなに俺が狂う姿を見たいのか」

「いやいや、そんな趣味ないし。変な誤解しないでよ」

「だが、他に理由が……」

「あるわよ、理由なら」

 私は右手を開いて、鈴を掲げてみせる。

「私、この子の"陽"の気を借りて"念"を祓えていたんでしょ? なら私がいれば、雅弥が祓う数を減らせるかもだし。そうすれば雅弥の"気"を温存しつつ、枯渇するタイムリミットも遅らせられる! って算段よ」

「……っ、だから、アンタがそこまでする理由が――」

「私が嫌だから」

「!」

 息をつめた顔に、"雅弥のためじゃない"と笑みを向け、

「あのね、雅弥。さっきのケーキではないけれど、私ってけっこう欲張りで自分勝手なの」

 視線を路地の先に投げる。
 橙に染まるこの世界は、まるで夕焼けのよう。

「私ね、最近は浅草ってなると、『忘れ傘』のことを思い出してた。けれどきっとこれからは、こうして雅弥に背負われたなって、一番に出てくる気がする」

 ううん、もしかしたら。
 朱塗りの門を見るたびに、子を負ぶう誰かを見かけるたびに。
 きっと私の脳裏には、今、この瞬間が思い浮かぶに違いない。