うんうん、このドライな感じ。落ち着く。
 二人分の重みに擦れる草履の音が心地よくて、薄く息を吐きだしながら肩を緩める。
 宝蔵門をくぐる。
 見えた仲見世通りも、店はあれどやはり誰もいない。

「今なら順番待ちなしで、食べ歩きし放題……」

「……店員もいないのだから、買えないしモノも作られないだろう」

「あ、そうじゃん。ざーんねん。せっかくだから"狭間"を堪能していこうかと思ったのに」

「アンタは"狭間"をなんだと……。そもそも、人に背負われておいて、どこまで自由なんだ」

「だって、こんなにも人がいない浅草なんてレア中のレアじゃない。普段は行きたいなーって思っても、けっこう気合入れていかないとだし」

「……それは、そうだが」

 珍しく同意する雅弥。
 一瞬、驚いたけれど、雅弥は家とはいえ『忘れ傘』に入り浸っている。
 しかも言葉はなくとも、渉さんのスイーツを結構気に入っているのは見ていれば明らか。
 ホントは浅草グルメだって気になっているのに、常の人混みにもまれるのが億劫で諦めていても、おかしくはない。

(今度『忘れ傘』に行く時は、なにか差し入れ的に買っていってあげようかな……)

 そんなことを思案しているうちに、揚げまんじゅうを楽しんだ店前を通り過ぎていた。
 そのまま仲見世通りを突っ切るのかと思いきや、雅弥は進行方向を右に変える。雷門を出るのではなく、ここで曲がるらしい。

 見えた『伝』の一字を柱に飾る朱塗りの門柱には、「伝法院通」の文字。
 その先には同じ色の柱が等間隔に並び、その上部の白い面には、それぞれ異なる筆の文字と絵が描かれている。
 黄土色の道。並ぶ店を眺めていると、やっぱり美味しそうな看板に視線がいってしまう。

「……渉さんのお祝いケーキ、ホールだといいんだけど。二切れ……ううん、出来ることなら三切れくらい食べたい」

「……まんじゅうまで食べておいて、どれだけ食べるつもりだ」

(あ、やっぱり知っているんだ)

 本当に筒抜けなんだ、などと"式"の凄さを実感しつつ、私は「そうだけど」と抗議の声をあげる。

「走ったり蹴ったり、いつになく身体動かしたから、お腹すいちゃって。エネルギーチャージしなくっちゃ」

 ねー、と肩に乗る子狐ちゃんを見遣ると、キュウと鳴いて同意を示してくれる。