息が上がる。腕も足も、きっととっくに限界を迎えている。
 なのに不思議と辛くはない。どころか思考は妙に冴え冴えとして、ちょっとした興奮状態に陥っている。
 もしかしたら。これでやっと雅弥に守られるだけの"お荷物"じゃなくて、"戦力"としてその隣に並び立てるかもしれないって歓喜が勝っているからで――。

(これで、ラスト……っ!)

 眼前で濃く固まるひとつを狙い、感覚のままに右膝を振り上げた。
 瞬間。

「――"薄紫"」

「!?」

 蹴り上げた軌道の、すぐ真下。
 同じ"念"を裂く、銀の切っ先。真っ黒な着物姿の青年。金の美しい(こしらえ)
 俯く顔が微かに上がり、長い前髪の隙間から、夜を灯した瞳が私をとらえた。

「ま、さや……?」

 零れた名に、彼はぎゅっと眉根を寄せ、

「……遅くなった。すまない」

 心底悔いた、悲痛な面持ち。
 私は衝動に「そっ――」と口を開き、

「そっちじゃないでしょ謝るなら! もうーっ! この"念"ラストだったんだからね!? 私が全部ケリつけたかったのに! 来るならもうちょっと遅く来てよ!」

「な……っ! 俺は早くアンタを助けようと必死に……!」

「分かってるけど! そこはありがとうだけど! でも違うんだってば……っ! 私だってせっかく"念"をなんかいい感じに消せてたんだから、最後まで私が――」

 刹那、視界が揺れた。
 違う。座り込んでしまったらしい。雅弥が「おいっ!」と焦った顔で手を伸ばす。

「あー……、ううん。ごめん、大丈夫。ちょっと、やっぱり限界だったみたい」

 感覚のない足に視線を落とす。と、細かく震え、先ほどまでの光はすっかり消え去っている。
 ――残念。
 そう思った途端、どっと疲労が襲ってきた。
 私は子狐ちゃんと鈴が落ちないようにと、なけなしの神経を遣りながら、両腕を石畳に落とす。

「……これのどこが大丈夫なんだ」

 呻くようにして見下ろしてくる雅弥に、

「どこがって……子狐ちゃんも私も無事でしょ」

「だから、狐はともかくアンタはどこがっ……いや」

 雅弥は怒りを抑えるようにして言葉を切ると、

「……高等な"狭間"は、招かれなければ簡単には見つからない。俺がここに辿り着いたのは、その式が(しるべ)になったからだ」

 雅弥が片膝を石畳について、その視線を私に合わせる。